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槍術を含み独特の体捌きを錬成する

西郷派大東流の腕節棍は、杖術や棒術を学ぶ為の、一番最初のステップである。腕節棍の操作を知ることにより、杖術や棒術の双方を修得することになり、最終的には「多敵之位(たてきのくらい)」に位置する槍術や合気槍術のレベルまでに迫ることが出来るのである。

 
西郷派で用いるスヌケの腕節棍 (重量:320g)

武器術・腕節棍
(ぶきじゅつ・わんせつこん)

●西郷派大東流腕節棍と西郷派大東流杖術

  西郷派大東流杖術ならびに棒術・槍術を完成させる為に、基礎的な躰術【註】躰捌きの術)として「大東流腕節棍」がある。これは「棍法課程」を会得する為の、大事な基礎稽古であり、かつ、棍法を修行する者は必ず会得しなければならない基本修行である。

 腕節棍は、一般的には空手等で言う「ヌンチャク」のことであり、西郷派大東流腕節棍と、空手のヌンチャクの違いは、ほぼ同質のものを遣(つか)いながらも、その運動法と使用法(「握り手」の部分の柄位置が異なる。空手でのヌンチャクの握り手は端柄であるが、わが流の腕節棍は紐の連結部近くを掴み、その遣い方は杖術と同じである)において違いがある。

 まず、西郷派大東流腕節棍の場合、二本の棍(こん)を繋(つな)ぐ紐(ひもの長さを、若干長くして遣い、それを節のある「杖」として遣い、杖捌きを会得する躰術(たいじゅつ)として、これを用いる。
 進退・左右移動の動作は、杖の足運び【註】足心打行(そくしんだこう)の足運び)であり、方向転換は、まさに「杖術の転身」である。

 杖の足運びは「足心蛇行(そくしんだこう)」と言う特異な、蛇のくねるような足跡の足運びであり、また、その躰動法(たいどうほう)は「足心打行(そくしんだこう」と言う、足の裏の足心を裡側(うらがわ)の踝(くるぶし)に叩き付けるようにして進退する特異な躰動法(たいどうほう)を行う。そして、90度並びに180度の転身の場合は、躰全体の重心を、足心に置いて拇趾球(ぼしきゅう)の位置で転身を行う。
 また、「弓身之足(きゅうしんのあし)」の態勢をとる。これは、「能の摺(す)り足の動き」と考えればよい。

 上半身の動きについては、一見空手のヌンチャクの動きに似ており、「風車」等の「廻し」や「胴払い」「あや振り」などを行うが、これは杖術で言う「水車」や「大車」であり、腕節棍の動作においては、杖術を完成させる為に通らなくてはならない「躰捌き」と「手頸(てくび)の返し」等を会得するのである。
 手頸(てくび)の返しは柔術の「極め」や「固め」、あるいは「合気」を行う上で、最も重要な上半身躰術の基礎となり、手頸の返しが充分に行えないと、「多数捕り合気」は行えない事になる。

  つまり腕節棍の「躰動法」は、全身を使っての「うねり」であり、合気杖に至る為の基礎的な動きをマスターするのが躰動法であり、既に腕節棍自体が「小さな杖」と考えるのである。また、腕節棍は「型の稽古ではなく、その究極の目的は、杖術や棒術に発展する全身のうねりであり、この「うねり」を自己の身体に発生されることを目的として稽古するのである。これが腕節棍の稽古であり、また躰動法を用いる為の最初の関門といえよう。
 この「杖」の意味において、空手のヌンチャクと異なっていることは明白である。

腕節棍の、躰に「うねり」を起す躰動法。体に「うねり」を起す稽古こそ、西郷派の合気修行の根本原理である。

 棍(こん)は腕の長さを持つ「杖」のことであり、肩から肘関節までの「上腕骨」と、肘関節から手根骨までの橈骨(とうこつ)・尺骨を腕節に見立てた棍であり、関節部を紐(ひも)で繋(つな)いでいると言う形体をとったものが腕節棍であるす。
  そして、この腕節棍を進退・左右移動の動作において、自在に操れる事が、次の段階である杖術へと繋がるのである。

 したがって、わが流の杖術を学ぶためには、基本として腕節棍の基本型のマスターがあり、その順番は腕節棍杖術棒術槍術あるいは薙刀術(なぎなたじゅつ)となる。つまり腕節棍は「長もの」という武器術を会得する為の一番基礎的な「躰捌き」を会得するために基本儀法なのである。この基礎儀法を学ぶことにより、杖術以降の儀法へと発展する。したがって、杖術や棒術、更には槍術を学ぶには、腕節棍の稽古を飛ばして、先に進むということはあり得ない。

 

●腕節棍の戦闘思想と大東流杖術・大東流槍術

 腕節棍から始まる西郷派大東流杖術は、「槍術」のレベルに至って、最終的な秘伝を完成させる事が出来る。それはわが流で言う「多数捕り」の会得の為の躰術(たいじゅつ)である。
 そしてその奥儀は「合気槍術」であり、合気の躰捌きは、この合気槍術に至って多数捕りの完成を見る。多数の位は、槍術によりその制空圏が確保され、この制空圏の確保なしに、槍術の奥儀に迫ることは出来ない。

 西郷派大東流槍術は、西郷派大東流杖術の五尺杖の上に、約一尺の刃渡り【註】穂先きから槍首下口金)の「袋槍(ふくろやり)」を被せた六尺棒の、室内戦の躰術であり、室内の中で六尺の長さの袋槍を自在に遣いこなせる事が「合気杖」の躰術となる。
 しかし、その始まりは総(すべ)「大東流腕節棍」(【註】基本型・第一の型〜第四の型。更には腕節棍「飛龍」へと繋がる)に回帰され、腕節棍の動きが杖術の基礎を作り、杖術の動きが槍術の基礎を作り、槍術に至って、この躰術は合気槍術となるのである。
 合気杖の始まりは、腕節棍に始まり、その修得過程の中に腕節棍の種々の儀法が存在するのである。

 

●西郷派における大東流腕節棍の検定

 わが流においては、杖術や棒術を学ぶ基礎過程として「大東流腕節棍」を置いている。したがって、この基礎過程において、腕節棍検定合格者のみが、次のステップである杖術ならびに棒術へと進むことが出来る。また、腕節棍の基礎過程を会得しない者が、杖術や棒術へと進むことは、わが流では絶対にありえない。基礎過程が終了しない者は、仮に、わが流の師範や指導員と雖(いえど)も、「棍法課程」には進むことが出来ない。

 つまり、柔術やその他の分野において、わが流の師範や指導員資格を取得する者でも、腕節棍の基礎検定の合格者でなければ、杖術や棒術、更には槍術の修得は出来ないことになっている。
 棍法課程に進むには、まず大東流腕節棍の基礎検定に合格しなければならない。また、奥伝儀や秘伝儀も、何一つ教わることは出来ない。これは各段位の有段者、各指導資格者においても例外ではない。それだけ、厳格なものであることを心得てもらいたい次第である。

 棍法と、一般柔術課程は、その躰動法において大いに異なるのである。柔術は躰動法が出来なくても、ある程度まで進展させることは出来る。しかし、「うねり」を伴う、合気は別である。これを会得するには、躰動法が必要不可欠である。

 ちなみに、西郷派の「腕節棍」と、空手の「ヌンチャク」の違いは、握る位置の違いにある。
 腕節棍は、基本的には杖術の握りを主体的に用いている為、杖術の風車(ふうしゃ)と同じように左右の握りは両方の握りが接近した位置で握るが、駆られ之ヌンチャクの使い方は、ヌンチャクの両端を握るようにして使われる。ここに腕節棍とヌンチャクの用い方の違いがある。

腕節棍の握り杖術の為の第一段階。
西郷派の腕節棍は杖握りである。
 
 
空手のヌンチャクの握り方1。
空手のヌンチャクに握り方2。

 上記の腕節棍と空手のヌンチャクの握り方の違いについては、同じ武器を使いながらも、その「握る位置」の違いによるものであり、わが流では腕節棍を、次段階の杖術や棒術、更には槍術に繋(つな)がる基礎的な鍛錬法として、基本業修得法においているのである。

 腕節棍の検定合格者は、杖術へと進むことが出来、また杖術を発展させた「合気杖」や棒術、更には槍術へと進むことが出来る。そして槍術の会得こそ、「合気槍術」となり、これが多数捕りにおける「躰捌き」となるのである。
 しかし、この段階に進む為には、基本の腕節棍の躰動法(たいどうほう)と躰捌きは必要になり、腕節棍はここに至る最初の関門となるのである。

 さて、わが流では腕節棍の検定を行い、この合格者に限り、武器術・腕節棍と杖術を学ぶ資格を得る。腕節棍の検定における「躰動法」による躰捌きと、合格タイムは次の通りである。

西郷派の腕節棍「あや振り」の妙儀。

 【註】なお、この合格タイムの基準は、「スヌケの腕節棍」の重量が320gのものを遣った場合の合格タイムであり、一般の樫の軽いヌンチャク(重量:220g前後)を遣っての合格タイムではない。
 また、合格基準に達する為には、腕節棍の使い方の「手頸(てくび)の返し」、足運びである「足心打行」「弓身之足」の足構え、更には「躰捌き」「躰の転身」の機敏さが要求され、動きの流れの美しさと「水走り」の滑らかさが要求される。以上の事に関して、普段から稽古を行い、「杖の動き」をも併せて稽古しておくべきである。

腕節棍躰捌き・基本操法の合格タイム
年齢別
第1の型
第2の型
第3の型
第4の型
一般部15〜60歳 25秒 30秒 50秒 45秒
年長部61歳以上 30秒 35秒 60秒 50秒

 武器術・腕節棍は「躰捌き」と、腕節棍自体の操法の「早さ」を問題にする武器術である。躰捌きが完璧で、腕節棍を遣う操法が、「正しく」かつ「早く」なければ、この基本に忠実であるとは言えない。遅い、のろまな動きで、なおかつ頭の中で、「次はどう動いたらよいのか」などと一々考えて動いているようでは、何の意味もなく、また実戦においては敗北者となってしまうだろう。
 その為にも、頭の中で考えて動くのではなく、躰が「滑らかに、自然に動く」という境地を体感しなければ、この武器術の操法は、何の意味も持たなくなってしまうのである。

 つまり、潜在意識に刻み込み、一々次の動きを考えるのではなく、自然の動きが、迸(ほとばし)るように出てこなければ、術者としての資格はなく、また杖術の過酷な「手頸を返す動き」にも耐えられないのである。腕節棍の修練は、「型の暗記」ではなく、動きを潜在意識の中に刻み込むことが目的であって、この「動き」を次のステップである、「杖術」へと繋ぐことが修行の目的なのである。

 特に、腕節棍の操法は、力で「振り回す」という次元のものではなく、手頸(てくび)を返しながら、手頸関節の手根骨が自在に、機敏に動くということが、次の杖術へのステップとなり、この基礎的な土台が正しくなければ、杖術【註】わが流では「五尺杖」を用いる)や棒術(わが流では「六尺棒」を用いる)においても成就することは出来ない。力技に終わり、そこで挫折してしまうからである。
 つまり、腕節棍は合気を会得する為の「うねり」の鍛錬の修行法の一つであり、体内に「うねり」を起し、発気するエネルギーを発動する「躰動法」の一つである。

 これまでにおける、わが流の門人で腕節棍・基本型検定の合格者は、僅かに、下記に示す門人の通りである。残念ながら、合格者は師範・指導員や有段者を含めて、驚くほど少ないのである。
 これは偏(ひとえ)に、現代と言う時代が、物財や金銭に振り廻され、あるいは色や肉欲に翻弄(ほんろう)されて、「一途な人間」を育てる要素が欠乏している時代であると言う、時代背景を雄弁に物語っているようでもあるようだ。形だけの捉われず、形の隙を心で補うと言う、心重視の原則で斯道に励みたいものである。

 なお、わが流の腕節棍は、型のスピードを競うものでなく、合格タイムに達成しないと、「うねり」状態が発生しない為、合格タイム内に動くことが必要不可欠であり、次のステップである「腕節棍・飛竜之型」への登竜門となるからである。

 今後とも、日々精進の努力を忘れず、一途に鍛錬し、わが流の門人の中から、「うねり」を発気することの出来る有能なる武人が、出らんことを大いに期待する次第である。
  (下記の検定合格者の合格タイムは、コンマ1秒以下切捨ててある。また、下の記載の門人の合格タイムは、検定年月日当時の段位による)

西郷派大東流・腕節棍 基本操法・検定合格者氏名
氏 名 所屬道場 段 位 第1型 第2型 第3型 第4型 合 格 日
曽川 竜磨 総本部尚道館 参 段 21 23 43 30 平成16年04月24日
荒木 一弘 元奈良支部 五 段 23 24 46 34 平成16年12月22日
曽川  彩 総本部尚道館 女子弐段 24 25 48 38 平成19年03月20日
福島 維規 八千代支部長 五 段 25 27 49 34 平成19年05月04日
平沼 豊彦 総本部尚道館 初段補 25 24 46 32 平成19年06月24日
山口 泰弘 中国広州市在住 四 段 24 27 44 31 平成20年02月10日
岡谷 信彦 習志野綱武館長 六 段 25 30 50 38 平成20年05月06日
中橋 雄介 習志野綱武館 参 段 25 30 50 40

平成20年06月22

高垣 卓也 習志野綱武館 参 段 22 25 45 33 平成20年08月17日
高安 伸明 新宿同好会 初段補 25 29 49 40 平成20年10月25日
横井 壮隆 習志野綱武館 初段 25 28 50 33 平成22年08月14日

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