トップページ >> 技法体系 >> 西郷派大東流の呼吸法概論(三) >> | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
丹田の感覚を会得する為には、掌(てのひら)で気を感じると同時に、丹田でも気を感じなければならない。更には、丹田で気感を得ることができてこそ、丹田の感覚が育っていくのである。この気感を明瞭にすることが、本当の丹田呼吸の第一歩であり、これが感じて初めて、そのスタート地点に立てるのである。 丹田呼吸において、全身はリラックスしておくことは謂(い)うまでもないが、リラックスしつつ、背の伸ばす。次に下腹へ気が洩(も)れていくような体感を感じることである。この体感を得て、少しずつ上半身を倒していかなければならない。 この丹田呼吸は、一種の深い深呼吸と掌(てのひら)で腹圧を感得しながら、気の感覚を把握していくことが大事である。丹田呼吸はまた、頭脳と上半身に密接な繋(つな)がりを持ち、上肢を活性化するのである。 初心者の場合、丹田呼吸を暫(しばら)く続けていると、静かに続けていると、胸部のところが前後より、上体にと倶(とも)に上下に、僅かに浮いていることに気付くであろう。この上下に僅かに動くこれば、呼吸法では「凡息(ぼんそく)」といわれるもので、この呼吸は胸の広がりが小さい為に起るアクシデントである。吸い込む息の量が少なく、然も酸欠状態に陥っている為に、こうした動作と倶に、間違いが起るのである。これは酸素の摂取量が少ない為に起すアクシデントである。 一方、逆に酸過多状態になって起るアクシデントもある。したがって、呼吸法は間違えば、吸い足らない場合も、吸い足る場合も、その両方にアクシデントが起るのである。 江戸期の臨済宗(りんざい‐しゅう)の僧である白隠禅師(はくいん‐ぜんじ)は、有名な『夜船閑話(やせんかんな)』や『遠羅天釜(おらてがま)』の中で、内観の法を説いている。白隠は20歳の頃、修行の遣(や)りすぎで禅病に罹(かか)ったことがあった。この禅病というのは、頭がのぼせ上がり、肺も衰え、両手両脚が氷のように冷たくなり、激しい耳鳴りがして、気が消沈してしまう病状を言う。禅を愛好する人には、たまたまこうした現象が見られ、これを禅病といい、僧堂(そうどう)で禅を修行している雲水(うんすい)も度々こうした病気に罹(かか)ることがある。 一口に「坐禅三昧(ざぜん‐ざんまい)」というが、これの正しい呼吸法から反(そ)れれば、屡々(しばしば)こうした事故が起こり、禅の専門家でも間違いを犯すのである。 一旦禅病に取り憑(つ)かれると、治す手立てがないのである。何事も億劫(おっくう)になり、激しい不眠症に襲われ、始終耳鳴りに悩まされるのである。白隠も若い頃のこの病気に罹り、悪化の状態にあって、幻覚を見たり、両目からは訳もなく涙が出て、両脇には大量の汗をかいていたのである。まさに人間が死ぬ間際(まぎわ)に顕れる「発汗」の、それであったのである。 そこで意を決した白隠は、名僧や名医の許(もと)を訪れて、症状を訴え、治療を受けたが全く治る気配がなかったのである。何処へ行っても何の効果も得られず、失意に打ち砕かれていたのである。 その時、ある人から、京都の山城国に近い北白河山中に棲(す)む、白幽(はくゆう)という仙人の話を聞くのである。そして、早速(さっそく)白隠は白幽仙人を訪ねることにしたのである。 白隠の過(あやま)ちは、修行のし過ぎにあった。坐禅三昧の愚にあった。幾らよいとされる坐禅も、遣り過ぎれば毒となって跳ね返ってくるのである。諸行法の難しさは、此処にある。修行も、遣り過ぎれば、毒となるのである。 白隠は「遣(や)り過ぎの愚」を冒して、禅病に罹(かか)ったのである。頭脳が逆上し、心身の疲労が激しくなって、神経過敏になり、不眠症に陥ったのである。現代人ならば、こうした時、内科か、神経内科などを訪ね、医者に頼って薬を貰い、これを解決するところであるが、白隠は自律神経を調整することで、精神状態を元の状態に戻していったのである。 現代医学は、神経症のような患者には薬物投与により解決の方法を狙うが、心身症や神経症は実際のところ、薬物投与だけでは完治できず、その後も引き摺(ず)って、統合失調症(精神分裂病)にまで発展することがある。内科的薬物療法では完治しないのである。生活習慣から起る病気の多くは、病院では治せない時代に入っているのである。 さて、白隠が患ったのは、こうした神経内科系の神経症あるいは心身症と思われる。心身の疲労によりノイローゼ状態になって、自律神経がコントロールできないのである。現代では、勉強のし過ぎや仕事のし過ぎの過労状態とでも謂うのであろうが、これに陥ると内臓までもを病んでしまい、身体に不定愁訴が顕れるのである。些細(ささい)なことで泣きたくなる。今まで熟練工として活躍していた人が、些細か事でミスを犯し、大失敗をする。安易なことで、見落としや聴き逃(のが)しをする。朝の寝覚めが悪い。会社や学校に行きたくなくなる。自分が役に立つ人間に思えなくなる。病気がちで、血圧が高く、心臓にも何らかの障害を抱えている。何事にもイライラする。世間の俗事が疎(うと)ましくなる。食べるものが美味しくない。マンネリ化して、何となく惰性で生きている。死にたいと思うが、その勇気がない。鬱(うつ)状態から抜け出せないなどがこれであり、当時の禅病と考えらっれて居たものは、今日で言う神経症あるいは心身症のことであると思われる。 鬱状態に悩まされ、何事もヤル気が起らないのである。白隠もまさにこうした状態にあり、神経過敏となり精神的に病んだ状態になっていたのである。 白幽仙人は、まず白隠に森羅万象の摂理を説き、宇宙万物の秩序だった働きを説いた。総(すべ)ては秩序だった運用で運行され、それに随(したが)って生きる道を説いたのである。その説くところは、天地大自然は、その根源に「陰」と「陽」が存在し、その陰陽の働きにより宇宙現象が展開されていることを説いた。陰陽の二つの要素が、絡み合って変化し、陰陽の力が交わり、あるいは陰から陽に変化し、人間を含む生きとし生けるものと、その他の物は現象の一切から生まれてくることを説いたのである。 更に宇宙は、人や物が生まれる以前から存在し、宇宙は気と、これに作用する力と、エネルギーが関与することで運営されていることを説いたのである。これらの働きが陰陽両極の中心にあって、これが巡るから万物が保たれることを説いたのである。これは宇宙秩序の根本原理だった。 白幽仙人から受け継がれた白隠の「内観の秘法」は、人間が先祖から受け継いだエネルギー情報を、気界丹田に充(み)たせと指導を受けたことであった。心と気を 丹田に集中し、安定した平成を保ち、安心して呼吸を繰り返す調息呼吸法だった。 この呼吸法を要約すると、次のようになる。
●呼吸法で自律神経機能が正常に戻る深い腹式呼吸による「内観の秘法」を実践していると、次第に潜在意識の何らかの影響が現れてくる。これまで全身に散在していた気が、集中を始めるのである。呼吸を静かに、ゆっくりと行い、潜在意識に働きかければ、腰・脚・足の裏の足心(湧泉)まで気が満ち、行き渡るのである。丹田部分の下腹部が「瓢箪(ひょうたん)」のように張りのある充実を見せ、この下腹の出来た状態を、「瓢腹(ひさご‐ばら)」という。瓢腹が完成すると、気が全身に漲(みなぎ)り、充実感が得られる。 この「瓢腹」というのは、強健術の創始者・肥田春充(ひだ‐はるみち)先生が会得した中心力の丹田肚(たんでん‐ばら)である。また往年の呼吸法熟練者たちも、この瓢腹を体得している。 瓢腹が出来上がり、充実感が漲ると、心臓が正常に機能し、高血圧や心臓病などの病気が一切消滅する。これが消滅した時に、手足から全身に移行する温かい気が充満してくるのである。この気を「陽気」という。陽気が隈無(くまな)く全身に漲ると、何とも心地よい気持ちになり、そのままぐっすりと眠れそうな感覚に入っていくのである。 例えば、この「内観の秘法」を寝る前に行うと、そのまま気持ちよく眠りに就け、一夜明けて早朝の起床時になると、静寂な気持ちを抱きつつ、落ち着いた気分で、先日より一層気持ちよく起きられるのである。起きて体感することは、気が充実して活力が漲っていることであり、何とも言えないよい気持ちが漂い、昨日とは違った新たな景色が見えてくるのである。 白隠は、この「内観の秘法」を繰り返せば、10日ほどで、この世の俗事が抱える一切の悩みや不安が消滅し、不快感がとれ、神経症や心身症、それに高血圧症や肺病などの、気のコントロールの不順から起る病気の多くが消滅するといっている。そして、「内観の秘法」を行い、これらの病気が治らなかったら、吾(わ)が首を差し上げてもよいとまで言い切っているのである。 「内観の秘法」の実践のポイントは、まず全身をリラックスさせ、力まないことである。力まずに自然体をもって、心気を充実させれば、呼吸がゆとりをもって、支(つか)えることなく深い調息呼吸ができるのである。調息呼吸が安定してくると、知らぬうちに丹田に力が漲り、活力が湧いて、「陽気」が発生するのである。 その時の感覚は、確かに「心地よい熱湯感」であり、まるで腹の中でお湯が沸いたような感覚が体感できるのである。長く深く重たく静かに吐気を行い、次に長く軽く静かに吸気を行うのである。この呼吸を繰り返すことにより、丹田部には陽気が集中をはじめ、蓄積された陽気は、次の行き場所を求めて移動が始まるのである。 呼吸法ではこの陽気は、男の場合は下降して会陰部(えいん‐ぶ)に向かい、女の場合は上昇して腹部を昇り始めるのである。此処まで進むと、全身が心地よい熱で覆われ、躰がポカポカと暖かさを感じてくるのである。呼吸法をした場合、熱感を観(かん)じる「陽気」が発生することが肝心で、この陽気を身体の各箇所に移動・伝達できれば、その細胞箇所に発生した一切の変質した異常細胞の病状は、正常細胞に取り込まれて消滅していくのである。異常細胞を、正常細胞に教導できれば、ガン細胞すらも教化して、正常細胞へと変質させっることができるのである。 昨今は、ガン発症などというと、早期発見・早期治療のスローガンの許(もと)、直ぐに外科的な摘出手術をして切り取ったり、抗ガン剤で叩くという三次元の医療技術で治療することが目論まれるが、結局こうした三次元治療では限界があり、せいぜい早期発・見早期治療のスローガンに迎合して治療を受けたとしても、ガン発症者が生き残れる生存率は、殆どが5年未満である。 その一方で、如何なる三次元治療も拒(こば)み、切除や摘出手術もせず、抗ガン剤で叩くこともせず、他にコバルト療法や遺伝子療法などの治療も受けなかった人が、僅か5年は愚か、10年、20年、30年と生き、90歳の長寿にまで辿り着いた人も居るのである。 昨今は製薬産業と医師会が、がっちりと提携していて、早期発見のガン発症者を見つけると、直ぐに摘出手術か、抗ガン剤投与に誘惑していくが、この誘惑に負けて、医者任せ、病院任せで命を惜しんだ人は、終末医療費を450万円から1500万円までも投入・投資して、結局5年未満で死んでいくのである。 また、病院や医師側の口車に乗って、本来の慢性病を種々の三次元医療装置や投薬で撃退することは、愚の骨頂であり、患者側の運命も、医師の口車に乗るか、これを拒絶して、ガン化した異常細胞を正常細胞に教化するかで、その人の運命の明暗は分かれているようである。これも偏(ひとえ)に、天命がなせる業(わざ)の「運命」というところであろう。 ちなみに筆者も、平成13年の12月に、長男の紹介で、付き添われて、ある大学病院の、ガンの権威という教授の診察を受けたが、その教授は筆者を、「肝臓の末期ガンと診断し、余命6ヵ月」と告知した。そして、摘出手術か、抗ガン剤投与での治療をしきりに奨(すす)め しかし、筆者はこうした、肉の眼に見えるものだけを相手にする三次元治療は無駄(【註】現代医学のガン三大療法である摘出切除手術、放射線、抗ガン剤などの化学療法では、ガンは治せない)であると悟り、切り取る治療や、叩く治療を拒否したのである。 何故ならば、生存率は長くても5年といわれている中で、もう有に6年以上も生きている。これは「がん告知」がもともと推測から言い当てるものであろうが、それというのも外科的な摘出手術も、抗ガン剤投与も拒否し、自分がガン患者であることすら忘れてしまったからである。自分の遣(や)りかけた仕事に没頭すれば、こうした悩みや不安は一切消滅するのである。また、暇を作らないことだと自負している。 また、「ガンは炎症であり、食事を自然食に切り替えて、正食をすれば自然と炎症は治まっていく」という、御茶ノ水クリニックの森下敬一医学博士の言に随(したが)い、玄米雑穀(玄米60%に雑穀40%)と無農薬・野菜中心の穀菜食の「正食」をし、間違いだらけの現代栄養学の「入れる栄養学」ではなく、粗食少食で「出す栄養学」を実践して、ガン患者の5年生存率といわれるガン発症者の中で、ささやかながらに6年以上も、余命を繋(つな)いでいる。この実践が、筆者には適合していたように思える。 筆者の日課を上げれば、朝は午前4時頃に起き、呼吸法と真剣素振りを一時間ほど行い、朝食はコップ一杯(200ml前後)の玄米スープか野菜ジュースあるいは豆乳で済ませ、昼(一汁一菜と野菜類か小魚などの骨ごと食べられる魚介類一品。食餌時間は正午より1時間掛ける)と、夕(一汁一菜で、昼食の半分の量。午後5時より1時間掛ける)の一日2食主義を実践している。そして夜は、深夜のテレビなども見らず、他の支部に出稽古がない限り、遅くとも午後9時までに床に入り、文庫本を一冊速読することを日々の楽しい日課とし、午後10時までには寝てしまうことにしている。 睡眠時間は6時間弱だが、短時間で熟睡する「短眠術」も会得した次第である。短眠術を会得したお陰で、イビキもかかなくなり、魘(うな)される悪夢のような夢も見なくなり(【註】筆者は霊的体質なのでこれまで悪夢ばかりを見続けてきた。ところが玄米雑穀ご飯にした直後から、こうした悪夢は見なくなり、逆に愉しい、爽やかな夢を見るようになった。夢は、脳に血流が流れて順調であるとき、活性化されて見るものである。こうした夢を見ることが出来ないというのは、白米や肉などの動蛋白中心の雑食をしているからである)、熟睡できる今日この頃である。 タバコは昔から一切遣(や)らず、これまでに喫煙の習慣は無い。また酒食も、最近は来客者や門人が集まった時だけに、アルコールは一合程度のお湯割り焼酎か、缶ビールの350mlを一本飲む程度である。そして、午後6時以降の夕食や夜食は絶対に摂らないようにしている。つまり、夕刻の6時から翌日の正午まで、毎日18時間断食をしている計算になる。この間に、今まで疲弊(ひへい)していた内臓に休息を与えるのである。 今では、一ヵ月に1回の「三日間断食」の、酵素60mlを一日3回朝昼晩に飲むだけの「酵素断食」を行っている。これにより、体内に停滞していた宿便や黒便は、総て出切った感じである。同時に軽快になり、呼吸法もやり易く、第一動きが軽くなるのである。体重も10kg以上減った。しかし、これでもまだ不十分で、これからも精進を続け、もっと身軽に、もっと素早く、霊的反射神経が身に付かなければならないと思っている。 更に、最近の粗食少食は、カロリー数で言うと、一日1400Kcal 未満の仙人食で、かつて肥っていた頃、再度再発した痛みを覚えていた肩関節の亜脱臼(あだっきゅう)も、股関節の亜脱臼である坐骨神経痛も、今では80%くらいが治ってしまった感じだ。また、立ち上がると膝や股関節に痛みを感じていた坐骨神経痛がらみの激痛も、今ではすっかりなくなり、躰も軽くなって、軽快に動ける次第である。昼過ぎの眠気にも襲われず、一日に、人の2倍以上も働けるのである。 筆者は元々、杖術や槍術が得意なので、最近は真槍(しんそう)で、毎朝一人で一人稽古を行っている。この際に動きのよさを感じるのは、「腰の切れ」である。腰の贅肉(ぜいにく)が取れたからだ。腰の切れがよくなると、足が出遅れずに、よく蹤(つ)いてくるのである。「能(のう)の摺(す)り足」と、躰動(たいどう)による足捌きがよくなるのである。 しかし、病態の身で、いいこと尽(ず)くめではない。やはり不調なのである。時々周期的に襲う、午後から夜中に懸けて、鳩尾(みぞおち)辺りと背中が酷く痛んで仕方ない時がある。こんな時は、上肢の経穴(つぼ)を押さえて、「自己指圧」と「自己整体」を行い、更にそれでも治まらないときには、リンゴを擦(す)ってリンゴジュースを飲むか、大根を下ろして、大根の汁を飲む、あるいはアロエを下し金で下ろして、丸ごと飲むことにしている。その後、痛みは鎮静化して鎮まるからだ。 鳩尾(みぞおち)が酷く痛むのは、胃ではなく、肝臓に炎症がある為であり、これに胆嚢炎(たんのう‐えん/肝臓病の中で一番多いのは胆嚢炎である。この病因は胆嚢に濃度の胆汁や胆砂が鬱積(うっせき)し炎症や痙攣を起こすから痛む症状で、時として堪え難い激痛を訴える)が絡んでいる為と思われる。また痛いのは、生きている証拠と、有り難く思っている。この歳になって、ようやく万物に自分が生かされていることに「感謝する」ことが分かりかけてきた次第だ。
それでいて、福智山登山(福岡県では最高峰の906m)も、最近では毎月一回以上行い、健脚とまでは行かなくとも、長時間、嶮(けわ)しい山道を歩行し、死ぬまで躰(からだ)を鍛えていく覚悟を持っている。こうしたことが出来るのも、「毎日欠かさず行っている呼吸法」の賜物(たまもの)だと思う次第である。
●呼吸法の上達にはずみをつける「滝行」と「温冷水浴」 単に呼吸法とは、坐り続けて遣(や)るばかりが呼吸法ではない。呼吸法実践には、時として、その修行の場を御滝場(おたきば)に移したり、温冷水浴の中に移動させて向上を図る呼吸法も実践しなければならない。 冬季などに、肌を冷たい空気に曝(さら)すと、血液を供給している尖端(せんたん)に位置する毛細血管は、急に縮んで血路を閉じてしまう。この時に、動脈血は毛細血管の血路が閉じた為に、毛細血管の手前にある動静脈吻合枝(副毛細管とも)というグローミュー(glomus)に静脈血を流そうとする。 このグローミューと云う概念は、西式健康法の創始者である西勝造(にし‐かつぞう)先生によって齎(もたら)された解剖学的、生理学的概念である。 つまり、グローミューを再生開発することは、副血行路を速やかに造ることが、心筋梗塞などの予防と治療に繋(つな)がる自然療法としているのであるとしている。
さて、一方において、グローミューが未開発の場合、血圧が急に高まると、小動脈が破裂するアクシデントが起る。この最たるものが脳溢血(のういっけつ)であり、脳などの毛細血管が詰まるのを脳血栓という。名のある往年の武道家達も、最後は脳溢血か脳血栓などの高血圧が原因で命を落とした人も少なくないようだ。あるいはアルツハイマー型痴呆症のボケ老人になって死んだ人も居る。これでは幾ら長寿を全うしたとはいえ、一端の武道家が、晩年をボケ老人で終わるのでは、実にだらしないではないか。 武道史を見てみれば、かつては達人と称された往年の武道家も、最後はこうした脳溢血か脳血栓、また脳卒中で命を失っている。呼吸法が正しくなかったか、あるいは試合とは関係のない呼吸法を軽視した為であろう。 脳溢血とは、脳出血のことで、脳の血管が破綻(はたん)して出血し、脳組織の圧迫・破壊を来す疾患であり、高血圧・動脈硬化によるものが最も多い。喫煙者で高血圧の人は、年齢が高齢に向かうと倶に、その症状としては、発作的に次の病因が顕われる。頭痛・意識消失・悪心・嘔吐・痙攣(けいれん)などがこれであり、出血部位により、種々の神経症状を呈する。 次に、脳卒中においても同じことが言えるだろう。 こうした症状に陥るのが厭(いや)なら、即刻喫煙を止め、アルコール摂取量も程々にするべきであろう。また、タバコにアルコールが絡んだ高血圧症患者は、最悪の死のコースを歩いていることになる。 本来、日本人には、「縄文」の昔より、喫煙をする習慣はなかったのである。それが十六世紀、日本にはポルトガル人によって、アメリカ土着のインディアンの習慣が持ち込まれた。その後、アメリカ・中国・インドその他に広く栽培されるが、タバコの葉はニコチンを含み、加工して喫煙用とするのであるが、これには麻薬と同じ常習性があり、高血圧症患者には極めて悪い状態を齎(もたら)すようである。 自分が高血圧と知りながら、喫煙の習慣が止められない人は、生きながらに、棺桶(かんおけ)に両足を突っ込んでいるばかりでなく、自身の魂までも悪魔に売り渡し、喫煙の常習の囁(ささや)きに負けているのである。何とも愚かしい限りである。 死期が近付いた人は、よく、その死に方や、臨終(りんじゅう)の態度が問題にされるが、おおかた臨終に失敗して不成仏に陥る人は、タバコやアルコールの常習者に限られているようだ。 さて、毛細血管の回路やグローミューを開発するには、アルコールの飲酒量は程々にし、タバコはきっぱりと縁を切っておくべきであろう。そして、三次元歩行の山稽古のトレッキング並びに、滝に打たれるなどして、冷水浴療法などを行うべきであろう。 高血圧症や動脈硬化で斃(たお)れる人の多くは、喫煙やアルコールの愚とともに、これに絡んで生活習慣である不摂生が愚かな成人病や現代病を引き寄せている現実がある。その為に、ガン発症予備軍として、その側面に高血圧症や動脈硬化症などが絡み、糖尿病が重ね合い、複合的に複雑に絡み、体細胞の炎症やそれに伴う疾患を齎(もたら)しているのである。また、炎症が存在していれば、その周りの血管においては出血現象が見られるのであって、この内出血と現代病や成人病は密接な関係があるようだ。 その意味において呼吸法の修行者は、併せて滝行や温冷水浴も同時に行わなければならないのである。つまり、グローミューの回路を再生開発することなのである。これにより、健康と不健康が分かれているといっても過言ではあるまい。 滝行を実践する場合の利点は、落下する水には、その落下の衝撃によってマイナスイオンが発生していることである。滝の傍(そば)に行くと、爽やかになり身持ちがよくなるのは、マイナスイオンの為である。この状態のとき、同時に細胞の細胞膜の働きもよくなる。それは冷水浴効果が現れるためで、毛細血管に刺激を与えるからだ。そして、この直後、グローミューが再生開発される。これを自律神経調整法といい、自律神経をコントロールするのである。 落下する滝の傍(そば)は、マイナスイオンが発生して気分を爽快にし、身体機能を調節している自律神経を正常に戻し、活性化する機能を高める。この時、身体を構築している細胞の細胞膜の働きも、極めてよくなるのである。細胞膜の働きがよくなると、栄養の吸収や老廃物の排泄が順調に行われ、特に排便については、一日に2〜3度も起るようになる。 一般に排便は、一日に1度が正常と考えられているが、現代人が一日3食主義を当たり前と思っているのなら、一日に排便は3度行われるべきで、粗食少食に徹している一日2食を実践している人でも、一日に最低2度は排便があるのである。 したがって、3食主義者であるならば、一日最低でも3度以上あるのが正常であり、一日1度では、その排便数の足りない分が、つまり酸毒化して老廃物となり、毎日に蓄積されていることになるのである。つまり、宿便や黒便の正体は、3食主義者の一日1回だけの排便から、残りの二食分が老廃物としてこれが腸内に蓄積され、やがて排便されないまま酸毒化して、腸壁の絨毛から血液に吸収され、体内の細胞に巡り、そこで炎症を起こし、「ガン化」するのである。 したがって、排泄されない酸毒化した老廃物は腸壁内に停滞し、これが10年、20年、30年、40年と留まり、殆どこびりついた状態になって半永久的に排泄することはないのである。これを断食や、半断食あるいは滝行などの水行を通じて、排泄を意図に行えるよう仕向けていくのである。 例えば、滝行においては、細胞の細胞膜に刺激を与える為、新陳代謝を盛んにして、酸毒化した老廃物が排泄されるように促すのである。また、「滝に打たれる」という行為自体、激しい水圧が加わる為に、細胞に与える刺激は大きく、大きな効果を上げるのである。 人間は普段、他の動物とは異なり、衣服を着ている為に、動物のように皮膚のグローミューの回路が閉じたままになっていて、自然界に剥(む)き出しになって置かれる動物とは異質である。その為に自然のままに健全健康を保つのは難しく、ある意味で衣服が邪魔しているのである。 また現代人の食生活は、喫煙やアルコールに絡んで、肉を常食にする食生活が主体となり、食肉の食事は多く白砂糖(【註】焼肉のタレには大量の白砂糖が使われている)や精白塩(【註】イオン交換樹脂法で精製されたナトリウム分99.99%の塩化ナトリウムで、高血圧症や動脈硬化を惹(ひ)き起こす)、更には化学調味料を使うレシピで味付けが行われる為、動脈が硬化して居るだけでなく、毛細血管もでも脆(もろ)くなり、更には毛細血管の手前にあるグローミューまでもが閉じて錆付き、これが全く機能しない状態になっている。その為に、脳などの毛細血管は目詰まり状態を起こし、そこで血液が停滞し、少しでも血液高騰状態が起ると、血圧が高まって小動脈が破裂し、脳溢血や脳血栓などを惹(ひ)き起こすのである。 こうした現代社会の元凶の側面に食生活が深く絡み合っている為、こうした普段の生活習慣を改善し、もう一度、日本人の先祖から連綿と受け継がれた日本の食体系を見直すべきなのである。 ともあれ、滝行は細胞の細胞膜を活性化させる為に、大きな効果があるのは事実である。また、精神面においても、普段は滝行の現代人の生活は一致しないので、最低でも一年に4回以上の滝行をすることをお奨めしたい。
滝行をすれば、まず、自分自身が大自然の中に溶け込んでいる佇(たたず)まいを知覚できる。また、滝を介して、天然なるものや、大自然に存在するものを感得できて、そこに一体感が生まれる。自分は大自然の中の、生きとし生けるもので、まさに大自然から生かされているという感得である。この感得がはっきりとした体感となって、やがて鬱積(うっせき)した心の内容物である、他人への恨みや妬み、侮りや軽視、怒りや迷い、苦悩や無気力感が徐々に消滅していくのである。 こうした消滅により、体内に蓄積された余分は疲労や、ストレスが解消されて、すっきりとした充実感が得られるのである。ここで生命は新たに新生し、心身を目覚めさせる新たな活力が湧(わ)いてくるのである。 水浴の中でも滝行とは違う行法に、「温冷水浴」がある。温冷水浴も、グローミューを開発する為に行法であり健康法であり、これは温水と冷水の両方に、交互に浸かりながら、グローミューを再生開発する水浴である。 この時、一気に毛細血管は収縮し、毛細血管は殆どが閉ざされてしまうので、動静脈吻合枝であるグローミューがこれまで閉じてしまった回路を開こうとして、血流をこの方へ流そうとする。これを交互に、15分交代に浸かることを奨励している。約1時間かけて、4回これを繰り返し、最後は、水に浸かって切り上げるのである。 心臓の弱い人や高血圧症の人、動脈硬化症の人は15分の時間を、最初は五分の一の、3分交代にして交互に繰り返し、繰り返す回数を多くするのである。これを毎日繰り返すことで、高血圧は下がり、血行がよくなって、冷え性の人などは、1週間くらいで完癒(かんゆ)してしまうのである。 但し、高血圧症の人は、最初に正しい指導を受けることが大事であり、自分勝手に独断と偏見でしないようにすることが大事である。水浴中に、毛細血管の急激な萎縮(いしゅく)で、激しい血行不良を起すからだ。また、滝行を行う際も、まず周囲の邪気を払うという作業からはじめねばならず、これを飛ばしたり、更には滝に打たれている際も九字の印を切り、「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」を行わなければならない。 免疫力のない人(高齢で病気を患っているばかりでなく、若くても飲酒や喫煙のある人は免疫力が失われている)は、往々にして周囲に散在する魑魅魍魎(ちみもうりょう)に憑依され易く、滝行をしたことで、あるいは水浴をしたことで更に体調を壊し、脳血栓や脳溢血で斃(たお)れて、植物人間になる懼(おそ)れもあり、また喫煙者は肺炎を起すこともあるので充分に注意をし、正しい指導を、初歩から受けるべきであろう。 また、特に心臓の弱っている人や、高血圧症の人は、最初から冷水浴をせず、手足に冷水を掛ける程度にして、冷水に徐々に慣らしながら、冷水浴が出来るように切り替えていくのである。こうすると無理なく、温冷水浴(【註】夏場は温浴よりはじめ、冷水浴で終わり、冬場は冷水浴よりはじめ、温浴で終わる)が出来るようになり、最後は一回につき、冷水の中に15分でも、20分でも楽に入っていることが出来るのである。こうすることにより、毛細血管が閉じ、これに代わって、動静脈吻合枝(副毛細管とも)であるグローミューの、これまで閉じていた回路が開かれ、これが毛細血管に代わっての役割を果たすのである。
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