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大東流の基本となる日本刀の操法

素振り鍛錬 ■
(すぶりたんれん)

 自在に剣を遣いこなすには、まず素振りによる呼吸法の会得が大事である。木刀を持ち、素振りの呼吸法を会得するには、単に一般に市販されている木刀ではなく、素振り用の木刀が必要不可欠となる。この素振り用の木刀を用いて、一人稽古法として、日々素振りを行い鍛練するのである。

 植芝系の合気道では殆ど、剣を用いた稽古は、あまりやられていないようであるが、大東流では剣を最重要の修練過程に取り入れている。それは剣の裏技が柔術であり、柔術を遣うには剣の間合いと呼吸を会得する修練が欠かせないからである。
 素人考えで、柔術は畳の上での修練と誤解されやすい。しかし柔術は剣術の裏技であり、剣術をある程度、理解しない限り、本当の柔術に至る事は出来ない

 柔術は剣を用いない、剣の無刀捕りであり、実際には剣を用いないが、自らの手刀(てがたな)を剣に見立て、敵と対峙(たいじ)し、それと戦う儀法である。
 ところが一般に知られる合気道は、誰にでも出来る新興武道であると言う印象を抱かせるために、無刀同士で組ませて、剣と言う、難解な技法を排除して、簡単化した宣伝効果を狙ったものであるといえる。そしてこうした目論みがあった事は、否定できない。そのために、剣の修行法が殆ど存在しないのである。

 西郷派大東流の合気剣術の「剣操法」の修行を挙げると、まず、次のような特徴があげられる。

素振り用の木刀三種

▲総本部・尚道館が薦める素振り用の木刀三種。
上から順に通常素振り木刀(750グラム)、
中央・櫂型素振り木刀(900グラム)、
下・八角型素振り木刀(1200グラム)で、お薦めはこの八角型素振り木刀。

 
手頸(てくび)に関して、伸びんとする手頸を保つようにするのが、大東流合気剣術の特長である。
肩に力を込めず、伸び伸びと行い、左右の方が孰れかに傾かないようにし、鏡を見ながらこうした歪みを是正する。こうした素振りを十分に行うと「怒り肩」にやらず、山型の「撫(な)で肩」となる。昔から、撫で肩に剣豪と言われる人が多かった事はよく知られている事である。
上段の構えは、単に右上段ばかりでなく、左足前の、左上段がある事を理解しなければならない。左足を前にして構えるのは、伝統的古流剣術の定石(じょうせき)である。ここが近代剣道とは異なっている大きな特長である。
剣を上段に振りかぶった時、剣が後方に垂れないように注意しなければならない。振りかぶり過ぎの戒めである。上段に構えた角度はおおよそ45度である。
この時、出来るだけ肩の力を抜き、胸を大きく張るようにする。上段に構える。
剣の握りは、茶巾絞りの要領で絞り込み、右手に左手を付けるようにし、剣の小尻に当たる部分を掴まないようにして、左右の掌の返しがスムーズに行くようにする事が肝腎である。握りの主体は左手であるが、右手を鍔元に固定したまま、左手が柄の小尻から鍔元までを行き来する。
 この左手を常に動かすと言う点も、近代剣道の長い竹刀の柄の握りとは異なっている。真剣ならびに木刀の握りは、熟練者については剣の柄一杯に左手を握り、初心者は鐔許(つばもと)近くを握り、右手との感覚は、一拳くらいか、それより若干短くして握り、この握りの形で空間を作る。
 また上段の構えから一刀両断にして斬り結ぶ場合は、両手の「合谷」(ごうこく)の経穴同士が一直線上になるようにして握るのが肝腎である。このように正しい剣の操法を知っておれば、指導者から口伝の部分を教わる場合、非常に分かりやすく、その手順なども正確に把握できるので、以上の事は正しく理解すべきである。
 更に、剣の握りの極意は、「手の裡(うち)を鍛える」と言う事にあり、これは相打ちで、敵を必ず倒すという「相打ちの剣」をマスターするための修行法である。
 この世のものは総てが流転し、流動的なものである。したがって千変万化・臨機応変に、何事も対応しなければならない。型にこだわり、骨董品の古い稽古方法にこだわっていると、ついには行き詰まり、敗北の要因となってしまう。常に実線をイメージしながら稽古をすれば、臨機応変は作(な)るのである。
転身素振り(西郷派大東流では「四方素振り」といい、「四方之位」を会得する基本動作となっている)をする時は、右足を軸としてそれに左足が左右の振りに応じて、90度ずつ動き、この際の左足は近代剣道競技のように、後ろ踵(かかと)が、床から離れないように注意する。つまり「つま先立ち」にならないようにするのである。(西郷派大東流には、口伝あり)

 以上述べた素振り法の基本を十分にマスターした上で、今度は真剣を用い、「試し斬り」や「据え物斬り」を行うのである。


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