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●日本の悲劇は何処に由来するか
 人は何故生まれるのか。そして、なぜ競争し、なぜ戦うのか。それも百年足らずの僅かな人生の中で……。

 パウロの黙示録の冒頭には、

  人間は災いなり、
  罪人は災いなり、
  なぜ、彼等は生まれたのか。
                とある。

 戦争は「災い」である。悲惨さを包含し、憎悪を包含している。人を憎み、人を傷つけ、人を裏切り、不信の世界にも踏み込ませる。そして一度、この世界に迷い込むと、そこは永遠を思わせる、気の遠くなるような迷宮の世界である。人類に、果たして、この迷宮から逃れる術(すべ)はあるか。

 いまでも世界の至る所には、「戦争の火種」が燻(くすぶ)っている。この燻りは、いつ第三次世界大戦の引き金になるかも知れない危険性を帯びている。
 人は話し合い、妥協点を見い出す為に、価値観の統一を図ろうとする。しかしこの価値観の統一がなされない場合、そこには小競り合いが起る。争うが起る。そしてそれが、「正義」や「聖戦」を掲げたスローガンが持ち出され、やがて戦争が始まる。

戦争風刺画。万人の誰もが戦争を否定し、戦争の矛盾を指摘するが、その否定と矛盾を未だに止める事は出来ない。
 人類は、いま、確実に進化していると言えるであろうか。統一価値観の許(もと)で、誰もが物分かりのいい人間になろうと、奮闘努力していると言えるであろうか。
 頑(かたく)なに、こだわる事を止め、「こだわり」から解放されて、本当の自由を得ようと努力しているか。
 そしてこの「こだわり」こそ、資本主義社会で言う「競争原理」の最たるものでないか。

 人間は「こだわり」、こだわる事によって、他との競争力をつけようとする。高邁な言葉で「企業秘密」などと称して、自分だけの我田引水を模索しようとする。ここに、デモクラシーの個人主義が存在し、エゴイズムが存在する。
 このエゴイズムは、個人であれ、国家であれ、最高のピークに達し、融点を超えて熔融する過熱のメルトダウン(melt down)に達した時、戦争が起る。だが大衆の多くは、デモクラシーの中に隠されているエゴイズムの実態を識(し)らない。
 個人的人権は、あるいは基本的人権と言うものは、個人の自由を認めたエゴイズムの最たるものでないか。こうしたエゴイズムがあるからこそ、人は、何事かにこだわり、こだわる人生を選択するのである。そしてやがて、悪しき個人主義へと拡大膨張して行く。

 誰もが、民主主義を世界最高の政治システムと信じている。議会制民主主義こそ、デモクラシーの要(かなめ)だと信じている。
 しかし議会制民主主義で選ばれる政治家は、一蹴して三流政治家ばかりである。十把一絡(じっぱひとから)げの、価値観の低いものだ。国民不在の政治も、これに端を発する。

 これは日本人が、国民の代表を選出する場合、この程度の政治家しか、選ぶ事の出来ない知的レベルの程度を如実に現している。
 民主主義が正しく機能する為には、国民が真から勤勉であり、かつ、知的レベルが高くなければならない。また理性と知性が必要だ。
 この必要十分条件が一つでも抜け墜(お)ちていれば、民主主義は愚昧政治に陥って、「悪魔の道具」へと成り下がる。日本の国会で行われている行政の茶番劇は、これを明白に物語っている。

 日本は、徳川封建時代の悪習から脱すると称して、欧米列強に習い、「四民平等」の道を選択した。しかし日本の選択した「平等」のデモクラシーは、奇(く)しくも西欧とは逆の、前近代的な「王政復古」と言う天皇制への引用であった。西欧が、君主制を打倒して人民主体の共和国を作り上げたのに対し、日本は天皇を政治の中心に据えたのである。

 ヨーロッパでは、君主制を打倒してデモクラシーを実現させたが、日本はデモクラシーを実現する為に、天皇を引っ張りだして来たわけである。
 しかし天皇を引っ張り出し、天皇制を存続する限り、政教分離は行われず、相変わらず日本は前近代的な国家しか、明治維新以降は作る事が出来なかった。かくして司祭王は、政治の中心に据えられたのである。
 天皇に、ありとあらゆる、持ちきれないほどの大権と特権を与え、しかも、これを一度も使わせなかった。

 これは一体何を意味するのか。
 日本の旧陸海軍に於ては、並列状態のまま、軍政および命令全体が、戦時下であっても、大本営までに、並列のまま移行されたと言う事実を持つ。
 日清戦争以降、天皇の軍事部門における諮問機関は、軍事参議官らに支配されていた。この軍事参議官のメンバーは、陸海軍の陸軍大臣、海軍大臣、陸軍参謀総長、海軍軍令部総長らの経験をもつ、両軍出身の特命将官だった。
 ところが、海軍は特命将官を出さないし、陸軍は特命将官を出しても、他の職務と兼任であり、専任のスタッフは誰一人として出そうとはしなかった。犬猿の仲であった日本の旧陸海軍は、当然の如く、制度を合併化する事無く、統合的な作戦起案は、最後まで出ず終(じま)いであった。

 平時に於ては、軍事参議官が活躍し、戦時に於ては大本営が戦争指導する形になっていた。だが、これは並列状態のまま、平時や戦時に関わりなく、国家の主権たる天皇を聾桟敷(つんぼさじき)に置き、蔑ろにした行為であった。

 戦時下における大本営とは、天皇の軍総司令部となっているのだが、中身は陸軍参謀本部が「大本営陸軍部」であり、海軍軍令部が「大本営海軍部」であった。単刀直入に言えば、平時も、戦時も内容が同じと言う事であり、有事が発生して戦時下になれば、「大本営」という看板を付け替えるに過ぎなかった。大日本帝国憲法下では、国家の主権者たる天皇は、各々の軍の統帥に天皇を掲げ、天皇に大権を与えて、陸海軍の各々は不可侵なものと定義していたからだ。

 ここに大日本帝国憲法の矛盾点があった。
 つまり、天皇と雖(いえど)も、憲法およびその下位に付帯する諸法令に基づいての権限のみに止まるものであって、絶対君主制下の王のように、法律を超越した存在ではなかったという事である。これこそが、立権君主制と絶対君主制との違いである。

 大日本帝国憲法では、天皇に有り余る巨大な権力を与えながらも、立権君主制と言う名目で、その大権を一度も使わせる事無く、「天皇には何もさせない」という大矛盾を抱えていた。したがって陸海軍部が勝手に始めた戦争には、天皇と雖も、これに嘴(くちばし)を入れたり、あるいは戦争終結の方向に向かって、ブレーキをかけると言う事は許されなかったのである。これは国民不在であるばかりでなく、天皇まで不在であったと言う事だ。

 ゆえに、国家意思や国家戦略と言うものは何もなく、あるいはビジョンは構築されないまま、日本は中国大陸侵略の泥沼に首までどっぷり浸かり、やがては太平洋戦争へと突入するのである。日本の悲劇は、此処に由来している。
 そしてその最大の犠牲者達が、非戦闘員であった婦女子達であった。

竹槍訓練をする女子義勇軍。高性能の自動機関銃(LMG)やM1カービン(carbine/ 軽量・短銃身の自動小銃。元来は騎銃の意)などの小火器で武装した連合軍と、竹槍でどう戦おうとしたのか……。
 戦争に悲劇は充分に分かっているはずの人類が、戦争の矛盾を指摘しながらも、軍隊を維持しなければならない大きな矛盾のジレンマに、民主主義を標榜する何処の国家も喘(あえ)いでいる。そしてそれが、今の人類の姿である。これこそが、偽わざる人類社会の実態なのだ。

 何処の国家でも、人間が市民として暮らして行く為には、市民社会を構築する。幾つもの市民社会を構築した国家群が現れる。だが、各々の価値観の違いは、平和に共存する事を望まない。対立が起る。小競り合いが起る。話し合いで解決できない。そこに暴力が介入する。
 軍隊はそう云う国際社会の現状の、必要不可欠な存在である。
 この存在は、いつ焉(おわ)るとも無しに、これから先も続くであろう。
 それは、人類が一つの価値観を信じ、ただ一つに纏まって、共存共栄の、共に他を尊敬しあって暮らせる日が来るまで、軍隊と言う組織は絶対に無くならないであろう。

 要するに、人類は発生以来、少しも進化していないのである。
 また今日の人類に、武力行使を用いず、万人が理解できる説得力で話し合いで問題を解決するほど、まだ、人類は言語野や前頭葉はそれほど進化・成長していないのである。
 人間の闘争本能は、R領域の爬虫類脳や辺縁系の哺乳類脳に由来する。R領域が甚だしければ、縄張り意識が露になり、攻撃本能を明白にする。また、哺乳類脳が甚だしければ、愛情や交流を持とうするが、激すれば憎悪に変貌し易く、溺愛に溺れて、前頭葉の発達が阻害されたままになる。これこそが、進化を阻害する元凶となる。

 爬虫類脳や哺乳類脳の領域に支配されている場合は、少なくとも自己変革を目指す事が不可能であり、知性や、おだやかな感性など持ちようがない。したがって進化途上にある人類は、その周りに病気が蔓延(まんえん)し、憎しみが起り、争いが起る。平和な知性体として、地球に存続する事を、未だに拒み、そして自我に「こだわり続けている」のである。
 だからこそ、進化未発育の途上にありながら、この時点に、人類の悲劇が存在する。常に犧牲になるのは、非戦闘員である。か弱き、差別と暴力に屈する階級である。

本土決戦に備えて、木銃訓練をする音楽学校の女子学生達。
 非戦闘員とは、国際法に次のように定義されている。
 戦争に関する国際法上の概念で、広義では「戦闘に関与しない一切の人」のことである。あるいは、「交戦国の軍隊に間接に属し戦闘以外の事務に従事する者」とある。具体的に言えば、経理官・法官・衛生員・看護人・野戦郵便局員・獣医・軍務教員などの軍属である。
 ところが、太平洋戦争当時の非戦闘員の定義は、アメリカ側から観(み)てどうだったか。

 広島・長崎の原爆に悲劇からも観て分かるように、あきらかに非戦闘員と分かる赤ん坊や、一般市民の婦女子までが含まれていたではないか。これは最初から鏖殺(みなごろ)しを意図した殺戮(さつりく)である。何処にも、戦争を正義と掲げる理由など存在しない。
 アメリカを主軸とする国際連合軍の横暴であり、原爆投下と言う反人道的かつ傲慢な振る舞いは、アメリカの意図する「イエロー・モンキー撲滅」の、ほんの細(ささ)やかな第一歩を進めたに過ぎなかった。大戦当時のアメリカは、日本人を「イエロー・モンキー」と侮蔑し、「ジャップ」(Jap)と見下した。アメリカ人の感覚は、先の大戦が終わり、半世紀以上過ぎた今でも同じであろう。

 アメリカはキリスト教国家である。
 キリスト教は何を説くのか。人類の罪、キリストによる贖罪(しよくざい)を説くこの宗教は、正義と慈愛とにみちた父なる神への崇尊を認め、人格と教えとを中心とする宗教ではなかったか。しかし、キリスト教国家アメリカは、第二次世界大戦当時どうだったか。正義と慈愛に満ちていたのか。もし、正義と慈愛に満ちた国家であるならば、何故、広島と長崎の悲劇は起ったのか。これが正義であり、慈愛に満ちた行為であったのか。
 また当時、国際連合軍(United Nations/現在の国際連合の略称と同じなので注意)と名乗ったアメリカ以外の、イギリス・オーストラリア・フランス・中国・ソ連・カナダ・オランダ・ニュージーランド・フィリピンゲリラなどの蛮行はどうだったか。

 当然、非戦闘員として存在するべきはずの婦女子は、如何に扱われて来たか。如何に陵辱(りょうじょく)されたか。
 無能な陸海軍の戦争指導者に指導された先の大戦は、日本が最初から負ける為に企てられたものだった。そして当時、空しく散って行った乙女達は、この戦争の最大の犠牲者であった。


【イラストについてのお断り】
 本イラストは、昭和初期から太平洋戦争終戦までの時代背景をベースにして、画家の想像を含めて独自に描かれたものです。
 したがって、当時使用した軍用品や武器、携帯用品などを忠実かつ正確に再現したものではありません。
 また、軍服や制服その他戦時下のファッションなどにも画家の想像が含まれています。


本土決戦部隊・海軍女子陸戦隊。38式小銃の銃口には91式小銃擲弾(てきだん)器が装着され、これを発射する時は45度の角度にして長距離に打ち込まれた。

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大戦末期の女子挺身隊。多くは特志と言われる、学業半ばの女子学徒達であった。

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本土決戦の為に、女子学徒で組織された海軍女子海岸方面警備兵。

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本土決戦・陸軍女子警備隊。日本精神の象徴と言われた日本刀は、日本軍だけが保つ独特な武器であったが、配給されたその殆どは、大量生産された「造幣刀」といわれる直延(すのべ)の軍刀であった。拳銃は南部式小型拳銃。軍刀は32年式改の、俗に言う「曹長刀」で武装。軍帽は明治末期の下士官用の軍帽を改造。脚絆(きゃはん)は膨ら脛(はぎ)を包む形になった皮製。軍服は国防婦人会の制服。

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本土決戦海軍陸陸戦隊女子通信部員。大戦末期のなると、陸海軍とも女子通信隊を組織した。
男達同様、軍事教練や銃後の奉仕が実施されて、女性も戦場の中を駆け巡る事になる。敬礼に特徴あり。

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愛国婦人会女子部員。
 彼女たちは「愛国婦人会」と「国防婦人会」長老たちがが激しく対立する中、多くの職業婦人達は、いずれかの婦人会に半ば強制的に取り込まれ、男並みの軍事教練が課せられた。

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本土決戦の為の海軍陸戦隊の女子狙撃兵。狙撃眼鏡(スコープ)は99式の4倍のものが用いられ、狙撃銃は三八式小銃に代わり、99式の狙撃銃が使われた。
 狙撃を行なう場合、銃身を固定させる為には、狙撃銃に装着される折畳脚を使うか、三本の枝木を組み合わせて狙撃台座を作った。

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本土決戦帝都女子警防部員。拳銃ケースは南部14年式拳銃のものであるが、拳銃弾倉は、兵用帯革と、実砲30発入りの前盒(ぜんごう)で武装されている。

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女子挺身隊として赴任しました。女子挺身隊は陸海軍の軍需工場をはじめとして、陸軍通信隊や鉄道勤労作業等に従事させられた。

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本土決戦の為に組織された海軍女子陸戦隊。38式小銃には91式発煙弾がセットされ、第一次大戦中(大正時代中期)に誕生した旧式ものであり、発射薬の点火に木製の弾丸を使うタイプだった。

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海軍工廠女子勤労学生の休憩時間のひと休み。昭和二十年六月六日、国家総動員審議会は「女子挺身隊による勤労協力に関する勅令案要領」を決定した。

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海軍工廠の軍需工場で働く女子勤労学生。彼女達は女子旋盤工として勤労作業に協力した。行政指導のもと、女子挺身隊の結成と出動が強制的に行なわれた。

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