食べ合わせ 1
●「食べ合わせ」の言い伝えは本当か

 現代にも、なおかつ「食べ合わせ」と云う、強い言い伝えが残されている。
 その食べ合わせにおいて、最も根強く信じられているのが、「鰻(うなぎ)」と「梅干」との食べ合わせである。
 これは日本人が古来より言い伝えて来た食の伝承であり、今もなお、「食べ合わせ」の不具合を伝えている。

 「鰻」と「梅干」の他に、「西瓜(すいか)」と「天麩羅(てんぷら)」、「蟹(かに)」あるいは「蛸(たこ)」と「柿」、「ジャガイモ」と「薄荷はっか/シソ科の多年草で、香料植物として大規模に栽培し、夏と秋に葉腋に、淡紅紫色の唇形花を叢生(そうせい)する。茎・葉共に薄荷油の原料となり、香料および矯味矯臭薬となる)」、「とろろ」と「お茶」などであり、その中でも、「鰻」と「梅干」や、「西瓜」と「天麩羅」は、中でも食べ合わせの一番悪い食品に上げられている。

(うなぎ)の蒲焼きと梅干は、本当に「食べ合わせ」の相尅関係を持つ元凶食だったのか?

 そして、こうした「食べ合わせ」において、多くの日本人は、古来よりの言い伝えとして大切に厳守しているようだ。
 更に、食べ合わせの悪い食品として、近年では、「ラーメン」と「天麩羅」、「バナナ」と「生卵」、「牛乳」と「竹の子」、「黄粉きなこ/大豆をいって碾(ひ)いて粉にしたもの。砂糖をまぜ、餅や団子などにまぶして食べる。黄粉餅などが代表格)」と「青梅」、「サイダーcider/リンゴ酒ベースの 清涼飲料の一種で、甘味料・酸味料・香料などを加えて作った炭酸水)」と「ハム」、「アンパン」と「天麩羅丼(てんぷらどんぶり)」などの新作があり、古くからの言い伝えには登場しなかった食べ合わせの悪い食品が新しく出回っている。この中には、組み合わせから考えて、想像に苦しむものもある。

 「食べ合わせの思想」は、古くよりあり、平安時代の中期頃、中国より齎(もたら)された。
 天元五年(982年の平安中期をいい、円融天皇朝の年号で、翌年が陽五の厄(やく)に当たる為に改元)に隋・唐の医書を手本として作られた『医心方』【註】医心方は「いしんぽう」といい、現存するわが国最古の医書。主に隋の巣元方の「病源候論」による)には、既に「食べ合わせ」のことが掲載されている。ここに上がっている物は、45種ほどで、食べ合わせの悪い食品として「フキ」と「ワラビ」、「鯉(こい)」と「葱(ねぎ)」なども見られる。

 また、江戸時代になると貝原益軒かいばらえっけん/江戸前期の儒学者で、筑前福岡藩士。松永尺五・木下順庵・山崎闇斎を師とし、朱子学を奉じた。1630〜1714)が『養生訓』を発表し、その中にも食べ合わせに関しての内容が出ている。以降、こうした医学啓発書が刺戟剤となり、その後の医学書や食養書にも食べ合わせの事が登場する。

 その後の、続々と登場する医学書や食養書に記載された「食べ合わせ」の根拠は、これ等の存在を知った町人や農民が、自らそれを試し、実際に食べ合わせの相性が悪い事から、子孫代々に伝えたものと思われる。

 日本の場合、食体系の伝統は、食事を作る母親の権威に委ねられ、その権威は絶大なものであった。したがって、やがて母になるであろう娘は、母親からこれ等の伝承を享(う)け、身分の上下を問わず、家伝という独自の食思想が生まれ、これが代々に伝えられた。
 そして家伝から起った食体系の思想は、代々の子孫に伝わり、「食べ合わせ」を大切に守りたいと言う意向が流れ、今日にもそれが生きている。

 また、現代の母親たちも、自分の親から伝承を享けた食べ合わせについて、現代の子供達にも伝えられて行くものと思われる。

 さて、食べ合わせについて、では、「食べ合わせ」の悪現象が実際に起るか、否かを検証してみなければならない。
 日本では、食べ合わせの人体実験を自らの体を通じて実験し、食物中毒を研究していた学者がいた。
 時は大正10〜11年(1921〜2)に掛けてで、栄養研究所の研究員である村井政善は、自らが人体実験者として、古くから謂(い)い伝えられて来た「鰻の蒲焼き」と「梅干」の相性を、朝・昼・晩の全食に食べ続け、この真偽を確かめた。

 第一回目は鰻の蒲焼き200gと梅干40gを一日三回、三日間連続させた。
 第二回目は鰻の白焼き200gと梅肉醤油で、昼と晩の二回ずつ連続二日間。
 第三回目は鰻の霜降(しもふり)の刺身200gを夕食だけ。
 第四回目は鰻の蒲焼き200gと未熟な青梅4個を朝・昼・晩の二日間連続。
 こうした方法で、これを第八回目までを、手を替え品を替え、黙々と手食べ続け、実験をした。

 村井は鰻代だけで破産してしまいそうな実験を、自らの体を遣(つか)って実験し、食べ合わせについて研究したのだった。
 そして得た結論は、「鰻」と「梅干」の言い伝えによる中毒症状は、科学的根拠が全く無いと言う結論を下した。つまり、村井説では、食べ合わせによることで、食品が毒化し、中毒することは全く無いと言う事であった。

 ところが、こうした実験結果が出されている現代においても、「食べ合わせ」の食思想は、いまなお生き続けており、村井の人体実験を否定するような食指導が行われている。では、何故こうまでに、食べ合わせが生き続けているのか、その理由は何であろうか。

 「食べ合わせ」から窺(うかが)える科学的根拠は、先ず第一に、消化が悪い食品が多く上げられている。同時に、胃が凭(もた)れそうな食品でもある。
 第二に、組み合わせの何(いず)れかの食品が、時間が経てば腐敗が早い食品である。
 第三に、何れかの食品に、灰汁あく/肉などの煮汁の表面に浮ぶ白い泡状のもの)の強い物が上げられている。
 第四に、何れかの食品に、河豚(ふぐ)のような毒を持っている食品が上げられている。例えば、蛸(たこ)の足の先端や、ジャガイモの芽など。
 第五に、何れかの食品に、アレルギーを起こし易い食品が上げられている。例えば、生卵、とろろ、牛乳など。
 第六に、食べ合わせから言って、「西瓜」と「天麩羅」の組み合わせは、水性の物と油性の物の組合わせになっており、水と油では馴染まない食品。
 第七に、こうした食べ合わせの思想が展開された時代的なものがあり、昔は食品衛生の知識も乏しく、食べ物を貯蔵する冷蔵庫や、清潔な台所と言う観念も薄かったので、食品により、度々食中毒に犯されていたものと思われる。

 そこで「食べ合わせ」については、全く科学的な根拠のない食品まで悪者にされ、食べ合わせの伝承が作られたと思われる。
 また、こうした伝承が作られる現代的な新作の背景には、現代という時代に生きる、現代人の体質の悪さが上げられ、同時に食餌法の間違いや、食への乱れが上げられる。

 その為、今日でも主婦の間では、続々と新作の「食べ合わせ」が作られ、その根拠の人体実験になっているのが、現代の青少年の世代である。その最たるものは、アトピー性皮膚炎などの、一種のアレルギーと考えられる発症であろう。

 アトピー性皮膚炎は先天的に過敏な人に生ずる慢性皮膚炎で、乳児型・幼児型・成人型がある。しかし、先天的な発病は、胎児の時の母体と関連があると考えられるが、その発症機序は不明である。但し、「体質の悪さ」は覆(くつがえ)すことができない。
 こうした中、今でも続々と新作は作られている。

 例えば、牛乳と竹の子、とろろ芋と脂物、黄粉と青梅、牛乳と生卵、ラーメンと天麩羅などがこれであり、昔に比べれば、清潔で管理も行き届いた食品が供給されているのにも関わらず、新作が続々と登場するのである。

 こうした背景は、一つは冷蔵庫の過信であろう。冷蔵庫の片隅に放置された牛乳などの乳製品やハムやソーセージの肉加工食品の中毒被害である。あるいは夏場の咽喉(のど)の渇きを潤す、清涼飲料水などの飲み過ぎや、天麩羅やラーメンの過食などである。過食により消化不良を起こす事は、よく知られた症状である。過食・飽食の時代が、こうした消化不良状態や食中毒状態を起こしているのかも知れない。

 こうして考えて来ると、食べ合わせの被害や中毒は、消化し難い物を過食したり、腐敗し易い物を不注意で食べたり、夏場などの疲労し易い季節に、暴飲暴食したりの、食への慎みを忘れた事が、こうした現象を作り出しているのかも知れない。

 では、これまで展開して来た内容を整理すると、本当に「食べ合わせはないのか?」ということになる。つまり、村井説の内容で考えると、食べ合わせの不都合も、食中毒らしい現象も、何も起らなかったとなってしまう。

 しかし、石井は見逃していることがある。それは、鰻の魚肉に含まれる第二級アミンと、梅干に含まれる硝酸塩のことだ。

 第二級アミンと硝酸塩は体内に取り込まれると、硝酸は唾液中で亜硝酸に還元され、二級アミンは亜硝酸と反応して、ニトロソアミンを合成し、その結果大量のジメチルニトロソアミンを生成することだ。
 ジメチルニトロソアミンは、胃癌を発ガンさせることで知られている。

 更に、こうした状態を吟味(ぎんみ)すれば、食肉・魚肉・イクラ・スジコなどに添加すると、肉の中でニトロソミオグロビンとニトロソヘモグローゲンを生じる。こうした食品添加物は、見た目がよい。また色も安定していて、鮮やかなに映る。色の保存性もある為、合成着色料や食品添加物が遣われる。何れも化合物であり、保存料としては、亜硝酸ナトリウムが添加されている。

 亜硝酸ナトリウムは、それ自体に毒性があり、これをマウスに経口投与すれば、体重の1kg当りで、220mlを示し、これだけの添加量で中毒症状を起こす。また、硝酸ナトリウムを含む井戸水では、乳幼児がこの水を飲むと、亜硝酸中毒が発症する。これは硝酸を亜硝酸に還元する性質を持った細菌が、発生し易いことを物語っている。

 食品添加物の中には、ジメチルニトロソアミンという化合物も添加されており、この特有の臭気を持つアミンは、水、アルコール、エーテルなどによく溶ける性質を持っている。更に、皮膚刺激性を持つ。
 また、ジメチルニトロソアミンは発ガン性があることで知られ、現代という時代に生きる私たちは、食べ合わせと共に、発ガンする食品で、食べ物が取り巻かれていると云う事が分かる。

 ジメチルニトロソアミンは大型の魚肉や獣肉(牛肉・豚肉・馬肉・羊肉などの四ツ足)の中に含有されており、これが水やアルコールやエーテルなどの液体に出会うと、その中に溶けて、溶解した液体が体内で吸収され、また、その含有量は、調理加熱によって増加することが知られている。

したびらめのバター焼き(生肉の約18倍のジメチルニトロソアミンが生成・含有される)

豚の骨付きのスペアリブ(生肉の約22倍のジメチルニトロソアミンが生成・含有される)

 例えば、ステーキや焼き肉の場合、加熱具合によるが、レアrare/強火で外側をさっと焼き、中は赤く生に近い状態。左掲載写真・下)とウェルダンwell-done/中まで十分に焼けている状態。左掲載写真・上)の中間状態のミディアムmedium/中心部だけピンク色で周りはほどよく火の通った状態。左掲載写真・中)で、生肉の約25倍のジメチルニトロソアミンが生成・含有されると言われる。
 また、魚肉のサーモン・ステーキで、生肉の約21倍、焼きサンマで約17倍、焼きサバで約10倍、焼きイワシで8倍ほどのジメチルニトロソアミンが生成・含有されている。

肉の各焼き具合の断面
和風ビーフステーキ

 有機化学の教科書では、ジメチルニトロソアミンは「第二級アミン」と定義されており、魚肉や獣肉には発ガン性の含有量が多く、酸性化条件において、亜硝酸と反応し、容易にニトロソアミン(Nitrosamin)を生成すると書いてある。

 ニトロソアミンは、2価の基=N-NOを持つ化合物(ニトロソ基-NOおよびアミノ基-NH2を持つ)の総称で発ガン性が高い。第二級アミンと、亜硝酸との反応で生ずるが、両者とも天然食品中に含まれ、同時に摂取すると体内で生成する。
 ちなみに、第一級アミンならばアルコールを生じ、第三級アミンは反応をしない。
 つまり、食べ合わせとは、現代流に云うならば、中毒または発ガン性を有する元凶の食品と言うことになる。

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