人間の生き方を示した書物に『菜根譚』があります。
『菜根譚』は、儒教の思想を本系とし、老荘・禅学の説を交えた処世哲学書(前集と後集の二巻からなる)です。この著者は明末の儒者・洪応明(字は自誠)です。
洪応明は、前集には仕官・保身の道を説き、後集には致仕後における山林閑居(田舎暮しの不便を不便と思わない生活)の楽しみを説いています。
「口あたりの珍味は、これを過ごせばすべては胃腸を損ない、五体を傷つける毒薬となる。美味におぼれることなく、ほどほどにやめておけば害はあるまい。
心を喜ばす楽しみごとは、これにふければみな身を誤り、人格を傷つける原因となる。楽しさにおぼれることなく、ほどほどで手を引けば、後悔することはあるまい」
人生に「ほどほど」という言葉は、まさに金言です。しかし傲慢に陥ると、この「ほどほど」という事が分からなくなります。
今日の日本に見られる不幸現象の多くは「ほどほど」という言葉を忘れた事から起こっています。
さて、人間は人生という修行の場を借りて、ここで誰もが人生修行に励んでいます。そしてその修行の目的とは「求道」であり、道を求めることを意味します。
したがって道を学からには、心のうちを澄みわたらせ、何事も悟りを開く端緒とする心構えが大切であると『菜根譚』は説いています。
心を澄みわたらせるには、激しいビートでかき乱されたロック音楽では思考回路が閉ざされます。静粛がなによりであり、静かな状態においてのみ、その思考は健全に保てるのです。かき乱してはならないのです。
これと同様に食の静粛を保つためには、食の世界も乱してはならず、「ほどほど」という言葉を胆に命じたいものです。 |
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