人類淘汰の時代が始まった
当時の武士の強靭な体躯に驚嘆したヨーロッパ人達
  フロイス(Luis Frois/ポルトガルのイエズス会士)が、提唱した『日本史』の世界に今一度戻るべきです。
 彼はインドで司祭となり、1563年(永禄六年)来日したポルトガル人ですが、日本で布教中に、武士の体力の素晴しさに目を奪われます。
 そして滞日中、140余通の日本通信を本国に送った事が知られていますが、その中には、「武士の体質」の素晴しさについて語ったものが少なくありません。

 これによりますと、「武士達は、戦乱の最中白兵戦で斬り合い、刀傷を負っても比較的に早く回復した」と、踊るような筆使いで、その驚嘆ぶりを記しています。
 これは当時の日本人(当時の武士階級の殆どは、領主や重臣以外は、平時には漁をしたり、畑を耕すといった晴耕雨読の生活を送っていた。ある意味で身分や姿形に武士、農民、漁師の差はなかった。あったのは腕に職を持つ刀鍛冶等の職人や、商に聡い商人達であった)に強い治癒力が備わっていた事を物語っています。
 その治癒力の源となったのは、これらの蛋白源もさることながら、粗衣粗食に耐え忍べる強靭な精神構造と、病気に罹りにくい体質でした。

 当時の武士階級は、一様に贅沢嫌いであり、「質素倹約」を旨としていました。これは信長や徳川家康の食事からも伺えます。
 また『日本史』には、十六世紀に於ける戦国期の武家の食事と、体力の関係が克明に記されています。刀傷を受けた武士が驚くべき速さで回復していった事や、坂や山を甲冑を着けた儘、猛スピードで駆け降りたり、駆け登ったりした事などが、驚きの眼で記されているのです。

 戦場に出れば、徒歩侍(かちざむらい)でも甲冑を装着し、その重さは腰に巻いた食糧等を含めて三十キロ前後となります。
 また、騎馬侍(きばざむらい)であれば、その装備は更に重くなり、四十キロは下らないでしょう。そのような重さの甲冑を装着しながら、長槍や大太刀を振るうのですから、大変な体力と持久力を持っていた事になります。

 精神的にも不屈であり、堅固な意志を持っていた事が窺われます。そして以上を支えたのは、彼等の食生活から得た、素晴しい体質でした。
 更にそれにも増して、重い鎧を着けた儘、坂や山を駆け降りたり、駆け登ったりするのですから、最早神業(かみわざ)に近いものだった言えましょう。こうした光景が、外国人の目には、一種の天狗のような、軽業師と映ったのかも知れません。

 彼等は膝や腰は頑強であり、何よりも足首や膝のバネの力は、四輪駆動車のように相当なものであったと推測できます。これらは武士階級のみに留まらず、旅の雲水(僧侶)や山伏(やまぶし)等にも及んでいたと考えられます。単に、こうした体質は、肉体的トレーニングで、意図的につくられたものではなかったはずです。
 自然のままの、日常生活から養われた実学的な、作為を持たない恩恵であったといえます。
 それを裏打ちするのは、日本の「海の幸」や「山の幸」の、旬の食べ物の恩恵によるところが多く、更に日頃から粗衣粗食であった事が、これらの条件を可能にしたと窺われます。そこには頑強な精神と、現代人には無い「霊的体質」があったからだと考えられます。

 こうした事について、1541年、東洋伝導の為に、はじめて日本の地を踏んだイエズス会士フランシスコ・ザビエルも、本部宛の手紙の中に、このように記しています。
 「日本人は、自分たちが飼育する家畜も屠殺(とさつ)せず、その肉すらも決して食べることがない。彼らは時折、海や川の小魚を食し、蕎麦や麦や粟などの穀類が主食であり、大豆や野菜をその副食とする。味は味噌や醤油で薄く味つけされ、しかも薄味で素材の持ち味を殺さない。果物も僅かであるが、時折食する。極めて食事は質素であり、小食である。しかしながらそれでいて、十分な健康を維持していることは、誠に不思議の限りである。特に驚くべきことは、それらの僅少にも拘らず、頑強な体を持ち、足腰が非常に強く、高齢に達している者でも、達者に野山を駆け巡ることができる。また男女とも稀に長寿に達している者が多い」と、驚嘆の声を発して、これを書き送った記録が残っています。
 ヨーロッパの目で見た宣教師フロイスと、数分も変わらぬ『日本史』と同じような印象を、ザビエルは述べているのです。

 当時の日本に、肉や牛乳を食する習慣はありませんでした。
 それでも現代人より足腰は強く、骨格は頑強で、強い丈夫な体をしていた事が窺えます。 私達は古来より、先祖からの遺伝子を受け継いで、何千年と言う長い間、このような生活をしていたのですが、欧米推進派の「蛋白質信仰」と「現代栄養学」の横暴で、現代のような、見るも無残なコスト主義(大規模な集約農場)の一端に組み込まれ、日本人の胃袋は、もはや「ゴミ箱」と化しています。
 そして肉や牛乳が、健康を維持するという迷信まで、信じ込まされ、その上にジャンクフードの実害が浮上してきています。
戻る次へ