会員の声と相談者の質問回答集7




自己破産すればどうなるのでしょうか (53歳 無料相談室宛 元自営業)

 メールで失礼とは存じますが、私の切羽詰まった願いを、是非お聞き届けいただけないでしょうか。

 私は十年程前まで、米屋を営んでいました。親子代々三代続く米屋でした。
 しかし良縁に恵まれず、四十を過ぎたのに、それまで独り者を通していました。でも、その頃は、商売もぼちぼちといったところで、別に可もなく不可もなくと言うような景気で、何とか喰うにも困らないような生活をしていました。

 その頃、私の知人に内装工務店をしている業者がおり、彼の勧めで、店を改装してはどうかと言われたのです。
 彼が言うには、「店でも改装して、新しくすれば念願の嫁さんも来るよ。これに今流行りのコンビニと抱合せ、ついでに酒の免許もとって、米屋と酒屋とコンビニをやったらどうだい」という誘いを受け、お人好しな私は、その後の誘いも、曖昧な返事をして、暫くはぐらかしていたのです。しかし彼は度々やって来ました。そしてしきりに改装を促すのです。
 しかし、コンビニをするには、特定のFC企業の傘下に入らねばならず、そこの指導を受けて、その上、毎月売上の20%のロイヤリティーの支払を要求されます。そうしたことで二の足を踏んでいたのです。

 そして私が、どうしようかと迷っている時、工務店の彼が、今度はだしぬけに、某コンビニFC本部のスーパーバイザーを連れて来たのです。
 スーパーバイザーの話によると、まず契約金ならびにロイヤリティーの初回費用、保証金などを合わせると、約二千万円程かかると言われました。今考えると、あの時は、工務店の彼と某コンビニFC本部のスーパーバイザーは、ぐるではなかったのか?などと疑う事もあります。そして、工務店の彼は、某コンビニFC本部から、いったい幾らの謝礼金を貰ったのかなどと、よからぬ想像をしてしまいます。

 私は当時、二人の言い包(くる)めに巻き込まれて、結局、米屋と酒屋とコンビニを始める事にしました。銀行から住居兼店鋪の土地と建物を抵当にして、評価格の60%の資金を調達し、2,100万円を借り入れ、それでも不足分が300万円程生じていたので、それを二つのノンバンクのファイナンスから借り、更に店の増改築費用も含めて、自己資金をも合わせて総額3,150万円程になりました。
 そして三ヵ月程の工事期間を有し、増改築し、新装した米屋と酒屋とコンビニを合わせた店がオープンすることになりました。また工事費として、彼に払った費用は1,000万円を超えていました。

 最初の頃は、お客さんも多く、商売は順調で、返済も無理なくやって行けていました。ところが、その半年後に、母が大腸癌で倒れ、入院する羽目になりました。担当医の勧めで、大腸の一部を切除し、一時はこの手術で持ち直したのですが、また三ヵ月も経たないうちに、再手術が必要になり、ここからが私の人生の転落の時でした。その頃、私は丁度厄年の本厄に入っていたのです。

 母の病院の手術費や入院費用を合わせて、当時の金で350万を必要としました。この出費は、私のとって大変な痛手でした。しかし、早くに父を亡くし、母一人子一人で育った私にとっては、これまで私を育ててくれ、大学まで行かせてもらった母へは恩義もあり、やはり子供として、母に報いるのが親孝行ではないかと考え、医療費を掻き集める為に、店は従業員に任せ、金策にも走り回りました。こうして手形の決済にも困窮する日々が始まりました。
 手形決済をする為に、銀行系の最高50万円まで借りれるキャッシングはもとより、大手サラ金にも駆け回り、更に不足分を、いわゆる個人規模の街金と言う高利貸しからも借りるようになりました。

 最初のうちは、何とかやっていけるのではないかと甘く見ていたのですが、三ヵ月も経たないうちに支払に窮するようになりました。
 もうそして、借入金だけで有に4,000万円を軽く超えていたのです。やがて従業員にも給料が払えなくなり、次々に辞められ、私自身も自分自身の生活がままならぬようになったのです。そして、店は、新装開店から一年も経たないうちに、手放す結果となってしまいました。

 引っ越した六畳一間のアパートにも、高利貸しの借金取は押し掛けて来ました。罵声と強引な取立で、高利貸しを更に紹介され、タライ回しされていたのです。支払に苦慮する毎日が続きました。まさに地獄でした。その時、私は「型に嵌められた」と悟りました。

 そしてその後、母は還らぬ人となり、近所の人と民生委員だけの粗末な葬式を上げて、母の遺体を軽トラックの荷台に載せて、火葬場まで自分で持っていく時には、何故か泣けて来て、自分の惨めな姿に男泣きしたものでした。

 それからも借金を払う為に、借金する日々が続きました。
 ある時、スポーツ新聞に載っている『50万円まで即決融資』とか『とにかく貸します』とか『他店借り入れの方でもOK』などの広告が目に入りました。電話し、直行しました。しかし行き着いた先は、ある古いビルに事務所を構える悪質な紹介屋だったのです。

 最初はここが融資するのかと思っていたのですが、これが真っ赤なウソで、単に紹介屋に過ぎなかったのです。この紹介屋の勧めで、街金業者を何件も廻り、そこから金を掻き集めた後、借りれたら即、再びその全額を持って出頭せよと言う事だったのです。

 私は紹介屋の言う通りにして、街金業者を次々に廻りました。そこで何とか掻き集めたのは、200万円弱ほどの金でした。しかしこの金を、全額、紹介屋に持って出向くと、そこから紹介料で30%が差し引かれ、残りは110万円程になってしまいます。そこで、私は借りた金の事を知らせず、「金は借りれなかった」とウソを言ってしまったのです。
 しかし、ここからが大変でした。「借りれなかった」と一点張りで押し通そうとしたのですが、翌日はその筋の人と思える数人を、私のアパートに連れて来て、凄まじい脅しが始まったのです。

 私はそれでも「借りれなかった」と一点張りを通しました。大声で脅され、顔を殴られ、腹を蹴られて大変な暴行を受けました。
 後で、この暴行のことを警察に相談に行きました。悪質な紹介屋のことも話しました。ところが警察の回答は、「何で紹介屋などの処に行ったのか」「借りたものは、返さなければならないだろうが」などの冷たい返事で、暴行を受けた事については「そいつらに任意同行を求めて事情を聴くから、人相などを詳しく、そこの書類に書いて行け」という杜撰(ずさん)な扱を受けました。

 今まで、私は自営業者として、所得税も、市県民税も、不動産固定資産税も、自動車税も、善良な一国民として、それなりの税金を納めて来ましたが、こうした警察官を、私の税金の一部で食わせて来たのかと思うと、非常に腹が立ちました。
 そして後は「勝手にさらせ!」という捨て台詞を吐いて、アパートには戻らず、その場から200万円弱ほどの金を持って全国放浪の旅を始めたのです。とても惨めでした。着の身着の儘でした。泣くに泣けない状態でした。

 200万円弱ほどの金は、ビジネスホテルなどを泊まり歩くと、直ぐになくなってしまいます。
 その窮した後に、住み込みのパチンコ屋の店員、新聞配達員、土木作業員、訪問販売員、日雇人夫、スーパーの店員、蕎麦屋の店員兼出前持ち、長距離トラックの助手、レストランの皿洗い、漁師、小さな運送会社の運転手などを転々とし、ほぼ日本中を放浪して、やっと最後に辿り着いたのが、ある仕出し屋の板前見習兼仕出しの配達の仕事でした。

 もうあれから十年以上が過ぎ、私は満53歳になっていました。
 調理師の免許もとり、板前という手に職を付けたので、何とか一人で暮らしていけるだけの収入を得るようになり、小さなマンションを借りて、そこで三年前に知り合った35歳の女性と同棲し、彼女が身籠ったことを機に、夫婦として籍を入れました。現在は一歳半の男の子どもにも恵まれ、親子三人で、静かに、水入らずの幸せな日々を送っていたのです。

 ところが、かつてサラ金会社や街金から借りた、とんでもない利息を含めた、数千万と言う借金に督促状が届いたのです。これを見て、私も妻も仰天しました。約十年間、日本中を放浪していた間の不払いの延滞金と利息と元金が、十年間しっかりと計算されて、私宛に突き付けられたのです。

 民法でも、金銭貸し借りの効力年数は個人間で十年、業者間では商法に則り五年と定められていますが、それを十年以上も過ぎた今頃になって、督促されてしまったのです。
 また、あるサラ金会社からは裁判所の督促命令が、特別送達郵便で届き、支払を促す文面で、まるで強迫でもする内容で書かれているのには、一瞬青ざめてしまいました。こうした複数の支払を督促する総合計は、ざっと計算して、利息分も含め、軽く四千万以上になるのではないかと思われました。脳裏に交錯するのは、「もう、こうなったら自己破産するしかない」ということばかりを考えてしまいます。

 どう考えても、今の私に払えるような金額ではありません。この緊急事態に対し、いったい私がどう振る舞ったらよいか、どうぞ先生のお知恵で、何とか解決して頂けないでしょうか。

 大変厚かましいお願いなのですが、一ヵ月程前、購入したコンピュータで、ネットに繋いで検索したら、先生のホームページが出て来て、そこには詳細にクレジットや貸借関係の事が掲載されていたので、繰り返し読ませていただき、なるほどと納得させられる点も多々ありました。
 親身に相談する相手のない私は、もう頼る人は、先生しかいないのです。妻共々、深くお願い申し上げるしだいです。
 あるいは、私は、もう自己破産するしか手がないのでしょうか。

【註】この人は、この問題が解決して本会の会員になった。今では熱心な《癒しの杜の会》の賛同者の一人である)



回 答

 ズバリ申し上げよう。あなたは自己破産などする必要はない。
 もうあなたは、債権者に対して、全く支払う義務は負う事はない。一円たりとも債務の義務は派生しないのである。既に「消滅時効」(期限の利益を喪失した日、あるいは支払いの最終年月日より換算して、法人では商法522条に5年、個人的使用の場合は10年と定められている。これによって「消滅時効」が成立する)が成立しているからだ。

 但し、このまま放置したのでは、相手の思う儘(まま)に運ばれてしまう。まず、あなたは「時効の援用」をする必要がある。督促命令を出した裁判所宛に、異議申し立てをし、まず時効の援用をしなければならない。
 この時効の援用は、貸借関係に詳しい弁護士か、司法書士を立て、法律の専門家から、かつての債権者に対し、督促の回答をよこした一件一件を虱潰しに、時効の援用を申し出る事もいいであろうし、余りにも件数が多過ぎるのであれば、法律専門家に払う報酬は膨大なものになるであろうから、自分で時効の援用をする事も一つの方法だろう。

 また、裁判所からの督促命令は、意義申し立てする期間(特別送達を受け取ってから二週間以内)が定められているので、それ迄に異議申し立てをしない場合は、債権者側のペースに巻き込まれて、結局、元本と利息ならびに延滞金を含めた、全額の支払を命ぜられるだろう。
 そこで、異議申し立てをし、とにかく一円も支払わぬ事だ。債権者が押し掛けて来て、脅(おど)されてても一円も払ってはならない。支払えば、時効成立は直ちに無効となり、その時点で、自分が全額を支払う事を認めたことになるので、この点は十分に注意して頂きたい。しかし脅されて、少額でも払えば、後は債権者の思うように料理されてしまう。旧(もと)の木阿弥(もくあみ)どころか、その数倍もの金額が請求されるであろう。

 さて、債権者が郵便で回答書を求める方法でなく、直接押し掛けて来た場合は、かつての債務者に対して、貸金業者である事を証明する、各々の地方財務局発行の貸金業者の証明書か、その登録番号を示さねばならず、個人の街金業者でも、都道府県知事の発行する貸金業者の登録票を持っている。

 また、貸金業を始めるにあたっては、東京法務局が発行する成年被後見人、被補佐人、任意後見契約の本人とする記録がない事を証明する、「登録されていない事の証明」という証明書を都道府県知事に提出し、貸金業に於ては、従業員であろうとも、こうした証明を提出し、知事から登録票をもらって営業しているのである。その際に、「登録申請者」としての身分証明が必要になり、債務者が彼等に対し、以上の証明の提示を求めれば、これに従い、貸金業者登録証あるいは各県知事の発行した登録番号を提示しなければならない。

 取立に行く時間帯も法律で定められており、午前九時から午後九時までである。この時間外は違反となるので、こうした違反に対しては、各都道府県の金融課か、最寄りの警察署の生活経済係に違反取締を申し立てる事も出来る。脅されれば、これは立派な恐喝罪となる。脅されて精神の支障を来せば障害罪だ。

 また、裁判所を通じて来た債権者に対しては、裁判所の支払督促命令を早急に取り下げてもらう事だ。十年以上を経過しているので、時効が成立し、「時効の援用」をする事が出来る。

 では、時効の援用はどうすればよいのか。
 一番手っ取り早い方法は、債権者に対し、郵便で「自分が時効の援用をした」ことを書面で回答する事である。この書面は内容証明(郵便局において、郵便物にした文書の内容を謄本で証明すること)でもよいであろうし、普通の便箋(びんせん)に書いて、郵便で送りつけてもよい。但し、この場合、支払督促状を突き付けた債権者だけを相手にする事だ。
 支払督促をして来ない債権者もいるので、こうした相手に回答書を一々送る必要はない。寝た子を起こすような事をしても仕方あるまい。




 だが、一言聞いてもらいたい事がある。
 確かにあなたは、時効の援用をする事で、これまでの借金は帳消しになる。だが、これで総てが終ったと考えるのは早計であろう。
 あなたは、あなた自身の今までの人生を顧みて、反省するべき点は多々あろう。借金が総べて帳消しになったといって、これで喜んではいけない。時効の援用をしても、これは法的に消滅時効が成立するのであって、霊的には解決されていない。

 あなたに債権者から督促状が来たのは、入籍し、住民票の住民基本台帳が作成され、それが債権者の住民票閲覽によって発覚したと思われる。そして債権者も、また人間である。金を貸す事によって生活する人達だ。このまま帳消しになっては、彼等の恨みも残ろう。人間の恨みの唸(ねん)は、必ず「生霊化」する事を忘れるな。生霊(いきりょう)は実に恐ろしいのである。まさに、「いきすだま」だ。高々、四、五千万円くらいの金で青くなるより、生きている人間の怨霊(おんりょう)の凄まじさに青くなれ。

 大手のサラ金会社と異なり、個人経営の街金は、いつも債務者に何等かのリスクを感じつつ、しかしそれでも貸さなければ自分の口が干(ほし)上がるから、当時は、止むに止まれず、あなたを「危険ではないか」と疑いつつも、貸したのである。
 大手は債務者の不履行が一年続けば、損金で相殺し、利益分をこれから差し引いて処理するが、個人経営の小さなところは、そうはいかないのである。債権を何年も持ち続け、この持ち続けた期間は所得になるので、あなたが遅延を働いた延滞金と元本と利息を含めて、これに対し所得税を払って来た事を忘れてはならない。

 あなたの十年間の放浪は、非常に辛く、苦しい生活であったかも知れないが、あなたに金を貸した債権者も、あなたから逃げられて、その間、些少(さしょう)なりにも、困窮した筈である。貸金の資本が大きければ、少々の損金は問題無いであろうが、資本が小さい家族経営は、あなたと同じ苦しみを味合い、また潰れてしまった貸金業者がいるかも知れない。

 こうした所は、支払の督促などはして来ないので、小さな街金は、あなたの債権を抱えて、あなた同様、一家は離散し、散り散りになって全国の放浪の旅に出たのかも知れない。彼等もまた、社会の底辺を支える庶民なのだ。こうした、あなたの犧牲になった貸金業者に、感謝する必要がある。償う必要がある。督促がないからといって、彼等を甘く見てはならない。
 彼等も、意地になれば、自分の債権を暴力団に「下取り」させる事くらいはするのだ。その手の筋から、督促が来ないだけでも幸せと思わなければならない。あるいは、既に「下取り」されて、闇の集金人が、あなたの周りをうろついているかも知れない。

 「借りたもの(元本)は返す」というのが、この世の掟である。この掟を破れば、必ず来世に因縁を残すであろう。元本の返済は、必ず迫られるであろう。元本は決して金銭とは限らない。あなたを病気に至らしめる事で、その相殺を行うかも知れないし、妻子の怪我・事故・事件・病気・訴訟などで償ぐなわせるかも知れないし、また、あなたの命で償ぐなわせるかも知れない。

 人間は、金銭関係だけで繋(つな)がっている動物ではない。霊的な一面で繋がる事が多い。したがって、他の債権者から、あなたが厳しく取り立てられた時、「盥(たらい)回し」の一歯車として、仕方なく、あなたに金を貸した債権者も居た筈だ。
 この事だけは、十分に承知しておく必要がある。時効の援用によって、借金が総て帳消しになったと、安易に喜ばない事だ。

 これからは、霊的な償いが必要となる。これを怠ると、やっと掴んだ今の幸せも、一瞬に消し飛んでしまうだろう。凡夫は、消滅時効が成立して、これに安堵を覚え、喜ぶ愚か者が多い。しかし、この時点で次の不幸現象が、起り始めているのである。借金を踏み倒された債権者の恨みの唸は生霊化して凄まじい。これだけは決して忘れない事だ。

 最後にもう一つ付け加えておくが、あなたの夜逃げ同様の全国放浪は、まだ増しな方である。
 何故ならば、「買い取屋」の経験がないからだ。
 買い取屋とは、もう貸してくれる所がなくなった人が、最後の手段として世話になるところだ。此処に行くと、まずディスカウントショップなどで、売れ筋の家電製品をクレジットで買わせ、その商品を半値くらいで買い取る業者の事である。

 此処に足を踏み入れる人は、金が必要であるからこうした事をやるのであるが、その後の商品代とクレジット利息分の13.4%の金利は負担しなければならない。このカラクリが分かれば、利用するのも馬鹿馬鹿しく思えるが、今、現金に困っている人は、非常に有り難い存在に映るのである。

 世の中には、腎臓売買や、もっと恐ろしい、金融プロの「取立(きりとり)屋」「解体屋」「葬式屋」と言う連中がいる。こうした闇の世界の人間にかかれば、数時間後には、あなたの肉体は移植手術の人体素材になっていた事であろう。こうした地獄の底まで墜ちて行かなかった事だけでも、あなたは非常に運が良かったと思わなけれならない。生かされた因縁に感謝せよ。自他の垣根を無くし、多くの人に対して祈る事を知れ。慈愛の心を持つ事を知れ。





保証人を頼まれてどうすればいいか (24歳 会員 公務員)

 大学時代の空手道部の先輩に保証人を頼まれて、これをどうしたらよいか、思案に暮れているところです。
 自分は二年前に大学を卒業し、すんなりと公務員の試験に受かりました。それというのも特殊訓練で肉体を使う部署なので、大学時代の空手道が功を奏したのではないかとも思います。

 最近、ひょんな所で、大学時代の空手道部の先輩に逢い、立ち話をしばらくして、近くの喫茶店で、名刺交換をしながら世間話を始めたのです。この先輩には、大学時代、体育会での役員としても随分とお世話になり、また空手道部でも大変お世話になりました。
 名刺を交換した時、「へーっ、おまえ○○公務員をしているのか」と、一見驚嘆した声を上げ、「ところで……」という話になったのです。

 確か、先輩は空手の腕と根性を買われて、中堅の自動車販売会社に入社したと聞いていたのですが、今はその会社の肩書きもなく、貰った名刺には「実戦格闘技○○会館館長」の肩書きでした。
 自分が、「確か先輩は○○自販に入社して、係長か何かの役職だったのでは……?」と切り出すと、ここを辞めて(脱サラしたのか、辞めさせられたのかは不明)、今は格闘技道場を建てる為に、いろいろと走り回っているということでした。そして最後に先輩が切り出した言葉は、「おまえ、保証人になってくれないか」ということだったのです。

 それ以来、この先輩から毎日のように、職場にまで電話が掛かってきて、保証人の依頼を懇願をするのです。それは今でも続いています。
 そして半月程前、夜間に電話が掛かってきて、「今からオレの所に出てくれないか」というのです。大学時代の先輩でもあり、またお世話になった先輩でもありますから、無理に断るわけにもいかず、貰った名刺の住所を頼りに、車を転がして先輩宅のマンションへと向かったのです。
 そしてこの時頼まれたのが、やはり「保証人になってくれ」ということでした。

 先輩は「おまえには絶対に迷惑はかけないから」と繰り返し言うのです。また、お茶を運んで来た奥さんまでが頭を下げて、保証人になってもらいたい旨(むね)を促すのです。
 しかし、自分は「現在の○○公務員になって、まだ二年だし、勤続年数も少ないし、自分のような安給料のペイペイがどうして保証人になれるのですか」と反論すると、「公務員だからいいのさ」と言うのです。

 「親の遺言で、保証人だけにはなるなと言われているのですが」と切り返すと、「おまえの両親は健在だろう」と揚げ足を取ってくるのです。そして最後は笑い飛ばして、「オレは武道家だ。弱気を助けて強気を挫く、そんな男だ。武士に二言はない」といって、気安く肩など叩いてくるのです。
 それからというものは、どうしても保証人にさせねばと、執念深く付け回すのです。

 電話が毎晩のように掛かってきます。職場にまでも電話が掛かってくる有様なのです。そして奥さんまでもが、「主人の保証人をお願いします。絶対に迷惑はかけませんから」というのです。
 また先輩は先輩で、「おまえ、オレが大学時代に面倒を見てやって世話になったことは忘れたのか」などと、恩着せがましい電話が掛かってきて、恩と世話した事で、自分を取り込もうとしているのが見え見えなのです。
 最近は夜半にも呼び出され、「事業計画書を見てくれ」とか「返済計画書を見てくれ」とかいって、道場の敷地や建物の規模、建築の構造書類、支払計画などの具体的な書類を提示するのですが、自分ははっきり言って、こうした物の「読み方」を知らないのです。

 しかしこの頃は、余りにもしつこく迫るものですから、自分でも、「ええ〜ぃ、めんどくさい。判子でも押すか」と、先輩からの電話が煩わしくなりますが、一体これを、どのように処理すればよいか、思案に暮れています。

 先輩は、「絶対に迷惑はかけない。オレという人間を信用しろ」と言いますが、果たしてこれは信用に値するかどうか。はっきり言って、人生経験の少ない自分には計りかねているのです。
 実際問題として、「武士に二言はない」と言う、この先輩を信用してよいものか、あるいは警戒すべき人物であるのか、また、保証人はきっぱり断るべきなのか、思案に暮れるばかりで、ぜひ、その辺をご教授願いたいのです。



回 答

 あなたの、先輩と言う人間の「保証人にはなるべきでない」と断言する。この人間に、「二言はある」のだ。

 それを順に上げていこう。まず、先輩と言うこの男は、礼儀知らずである。
 本来、あなたに保証人になってもらうのであるから、あなたを電話で呼びつけるという礼儀知らずは働かない筈だ。しかし、この礼儀知らずの禁を、この男は犯している。この男の言う「武道家」とは、名ばかりだろう。
 もし、あなたに心から保証人になってもらう事を願い出るのならば、この先輩夫婦が、二つ頭を揃えて、あなたの所に「お願い」に出かけて来るのが筋道ではないか。

 「礼儀と言う物指し」で、この男の頭の程度を計れば、この男は、必ず不履行などを仕出かして、その尻拭いを、あなたがさせられるのは明白である。
 「絶対に迷惑をかけない」と言った人間に、絶対に保証人に迷惑をかけなかった人間は、この世には、一人も居ないと言う事を、心して知るべきであろう。「絶対」という言葉を軽々しく使う人間は、霊的に言って「格」の低い人間である。言霊(ことだま)の重要性を知らない人間だ。

 また、この男は返済計画にも甘いところがあるようだ。他人への依頼心が強く、他人を充(あ)てにしているところが多分に見られる。
 かつて滋賀県で、空手道場を経営する親子が身代金目的で誘拐事件を働き、逮捕された事があった。犯行理由は、道場を建てた返済金に窮しての事だった。そこで思い付いたのが身代金を目的にした児童誘拐であった。逮捕後、父親の方は捜査当局の厳しい追求で身体を害し、心労で獄中死し、今は息子の方だけが獄に繋(つな)がれている。

 返済計画は、最初は順調に行っているように思えても、自分が計画した通りには行かないものなのである。商売と言うものは、どれも同じであろうが、思惑が外れる事が多い。「棒ほど願って針ほど叶う」という現実を知らねばならない。自己資金を含めて、潤沢(じゅんたく)な資金を準備してからでないと、事業計画はなかなか旨く行かないものだ。楽観的に考えるのではなく、最悪の状態を予測し、こうした時の「見通し」も立てておかねばならない。あなたの先輩と言う男に、こうした「見通し」はあるだろうか。

 さて、あなたが保証人になった場合を考えてみよう。
 保証債務を負う人間は、法律上これを「連帯保証人」と言う。これは、身柄引き受けや、身元などを保証する、単なる「身許(みもと)保証人」とは訳が違うのだ。
 法的には、連帯保証債務を債務者と同じ責任を負うのであるから、債権者は連帯保証人に金額請求を行っても構わないのである。

 そして重要な事は、保証人が主たる債務者と連帯して、連帯保証人は履行する義務を負う保証債務を責務とする事だ。また、普通の保証人と異なって、連帯保証人は催告や検索の抗弁権(請求権の行使に対抗して、その作用を阻止しうる権利)を持たないという事である。

 そして未(ま)だある。
 例えば、あなたの先輩と言う男が、あなた以外にも、既に保証人を立てて、数人の債務者がいる場合、これは「連帯債務」という状態が発生する。あなたの先輩を、同一の内容の債務について数人が連帯債務を負う事である。一見これは、一人の連帯保証債務でなく、複数だから、いいように思う。あるいは債権者も保証する人間が多くて安心できるように思える。
 ところが、これには落し穴がある。

 数人で、同一内容の債務に、連帯債務を行い、最後にあなたの所に連帯保証人の依頼が廻って来て、これにあなたが署名捺印し、数人の中の連帯保証人になったとしよう。そしてあなたの先輩が支払の不履行を企て、債権者があなたの所に取り立てに来て、月々の支払のうち、一ヵ月分でも、一部金でも、あなたが保証人として立て替えれば、あなたが以降の支払一切を履行した事になり、他の債務者の債務は総べて消滅する債務関係を作る事だ。つまり、あなた一人がババ(婆抜きゲームのジョーカー)を掴まされ、貧乏クジを引いた事になる。

 本来保証人は、各個人間の信頼関係で派生するものである。義理や強制で派生するものではない。義理深くて、人情に厚く、お人好しの人間は連帯保証人の罠(わな)に嵌(はま)って、一生を台無しにする者が少なくない。
 頼み事をされた時は、まず「礼儀と言う物指し」で、その人間を計ってみる事だ。そしたら、その人間が、どの程度の人間か、見えて来る筈である。

 はっきり言うが、前途あるあなたの人生を、自身で台無しにしたいのなら、連帯保証人になって生涯金欠病で苦しめられるのも、立派な「身魂磨き」になるので、火中の栗を拾いたければ、それもよかろう。どちらを選ぶか、それはあなた次第だ。