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●体内浄化としての「みそぎ」

 人間の一番汚い処は外側ではなく、その内側です。したがって、歯を磨く事より大切なことがあるのです。それが躰(からだ)の内側を浄化する「みそぎ」です。
 食事の後、あるいは起床時に歯を磨く習慣は、大人も子供もよく慣れ親しんでいる作業です。そして、食肉や乳製品の摂取が盛んな飽食の現代は、三度三度の食事の後に歯を磨く人は多いようです。
 しかし現代は、何故このように一々歯を磨かなければならいかというと、それは恐らく肉食や加糖食品(白砂糖ベースのケーキや和菓子やスナック菓子)等からの酸性成分が歯に付着することを防止する為であろうと思われます。
 これを放置すれば、直ぐに溶かされて歯に穴が開いてしまうからです。それだけでなく、骨のカルシウム分も喪われていきます。

 現実には、歯を磨く事よりもっと大切なことがあり、これを怠れば、種々の病気の温床をつくり、災いやそのたの不幸現象の元凶をつくり、邪神を受け入れて悪魔を温存させる事になるります。
 その悪魔とは何か。それは「宿便」と言うものです。
 この「宿便」は、腸内に長くたまっていた便の事であり、腸壁内にこびりついたヘドロ状の食べ物のカスです。このカスは、動物性の食品(肉類、乳製品、鶏卵類、大型高級魚等)を食べている人ほど、酷くコビリついて、中々剥がれ落ちる事はありません。

 不健康と宿便、病気と宿便の関係は切ても切れず、これらの要因は肉食主義の齎(もたら)した悪しき穏亡(おんぼう)であると同時に、それを排泄する浄化法を知らなかった、無知と未熟から来る怠慢の結果です。
 肉食家や甘党(ケーキやスナック菓子の常食者)は、早熟で性欲旺盛で、男女とも往々にして好色家であり、肉体の表面的な快感や享楽だけを追求して、内面の手入れは怠っているようです。また、トイレ等が昨今は洋式化して、自分の排便した便をじっくりと見るような事がなくなり、自分自身の便から健康状態を窺(うかが)い知るような事は、究めて稀(まれ)なようです。

 さて、あなたは食事の後、あるいは起床時に歯を磨くとして、排便の後、あるいは一日一回直腸や大腸全体を洗う事を知っているでしょうか。
 直腸や大腸全体を洗う事は、歯を磨くより大切であり、また排便後、全て燃焼されなかったカスは全部排泄されている、と言い切れるでしょうか。残便感が付き纏(まと)う時や、肛門を拭いても拭いても拭き切れない時は、まだ腸内に排泄できなかった残留物が残っているという証拠なのです。これが日を追うごとに腐敗菌と変化して宿便となり、腸壁内を悪臭や汚れで満たすばかりでなく、種々の病因の根源になるのです。

 食物の陰陽と正食法(食餌法)を誤ると「便秘」という状態を起こすのです。この便秘という、腸の機能が低下して起こる病気は、やがて「宿便」という恐ろしい病気に発展します。宿便は、大腸ガンを誘発する肉食中心の食事から起こる病気です。

 では、便秘は如何にして起こるのか、それを追ってみることにしましょう。
 便秘の原因は、生活の不摂生であり、生活の乱れから起こります。運動不足、肉食や油もの中心の食生活、腹圧力や腹筋力の低下(腹の回りに脂肪がつく過ぎる悪状態)、ストレス等の精神的疲労から起こり、やがてこれらは頭重、のぼせ、肌荒れ、ニキビや吹き出物、食欲不振あるいは反動的な過食、腹部の膨満感、腸内異常醗酵、蜘蛛膜下(くもまっか)出血、痔疾、大腸癌、直腸癌等の病気を引き起こします。これらは血液の汚染が原因であり、血行不良になったり、各部位に停滞して炎症を起こし、やがて正常細胞が変質してガンへと移行していきます。
 精神的には精神分裂症や、感情が高ぶってヒステリック(ヒステリー状態/Hysterie/神経症の一で、劣等感・孤独・性的不満・対人関係などの心理的感情的葛藤が、運動や知覚の障害などの身体症状に無意識的に転換される反応)になったり、登校拒否、家庭内暴力等に発展していきます。脱力感や疲労感もこのせいであり、殊に現代を象徴する苦渋感は、心的な心身症に発展し、やがてこれが神域(神/しんを冒す精神病を齎すのです。この傾向は肉食主義者ほど多くなります。
 そして、忘れてはならないのが、体内の内側は、外側より究めて汚いということです。

温水循環器(通称名シャワラー)

 一般の良識者は風呂嫌いの者を不潔と罵(ののし)り、眉をひそめて鼻を摘みますが、内側の汚れに比べれば、二週間や三週間風呂に入らないことなど、大した問題ではありません。外側だけを念入りに手入れしてうまく装い、小奇麗にしていても、内側の汚れに比べればその比でないのです。
 人は、満身創痍(まんしん‐そうい)に外見を飾りたてても、内側はあらゆる種類の恐ろしい悪魔的な不潔で満たされているのです。それはあたかも死人を葬り去る忌まわしい穏亡のようなものです。人間は、美と醜が同居しているのです。
 こうした同居状態を禅の世界では、『浄穢不二(じょう‐えふじ)』と言います。人間は、表皮は小綺麗にしていても、所詮その中身は、「糞袋(くそぶくろ)」あり、鈴木正三すずき‐しょうさん/江戸初期の禅僧。三河生まれの幕臣で、のち出家し、武士道精神を加味した一流の禅を唱えた。1579〜1655)が喝破した通りの、生きている間は浄穢ともに共棲する事が強いられます。

 現代は、健康で生きるという事が本当に難しくなった時代です。
 「健康で長生きする為にはどうしたら良いか」という事を真剣に考えなければ、哀れで暗愚な人生で世を去らねばならぬ事になります。世は、依然として飽食の時代であり、食べ過ぎが原因で命を落とす者は後を絶ちません。

 さて、先に断食を上げたが、断食は確かに「みそぎ」的な効果を持っています。しかし、色々な誘惑の多い現代、一人孤独に耐えて断食を実行する事は究めて堅固な精神力が必要です。したがって、一人では容易に出来るものでもないし、断食の計画を立てても、大半は計画倒れで終わってしまうことが多いようです。
 そこで断食とは異なる、腸内を「みそぎ」出来る方法が、温水循環法です。温水を肛門から送り込んで、大腸を丸ごと洗ってしまう方法です。
 これはキリストが実践した浄化法であったし、また、仙道せんどう/瓢箪と蔓等の道具を利用して、大腸内を洗浄する浄化法)やヨガ(肛門から腹圧によって水を吸い上げ、大腸内を洗浄する術)の中にも、この方法が登場しています。つまり、悪因の禍根(かこん)をつくる「五障」を取り除くことをいうのです。



●五障とは何か

 病気ではないが、何となく体調が優れないとか、気分が優れなかったり、それかといってハッキリとした異常は感じられないという状態を「不定愁訴(ふてい‐しゅうそ)」と言います。
 不定愁訴は、器質的な疾患が認められないのに、様々な自覚症状を訴える状態であり、現代医学ではこれを病気の状態とは認めていないのです。ただ精神医学において、自律神経失調症等の病名を用い、神経症やノイローゼ等をこうした病名で呼んでいるようです。
 予防医学の立場からいうと、完全な赤信号の状態であり、この不定愁訴を取り除く事が、健康と運勢を強める方法なのです。
 しかし現代人はこれを甘く考えがちです。この状態は火事を知らせる警報器が鳴っているような状態です。
 喩(たと)えば、夜寝ているとき警報器が鳴ったしましょう。その警報器の音が煩(わずらわし)いからといって、あなたはその音だけを停止させて、何事もなかったように、再び床に就けるでしょうか。
 まさに不定愁訴は、この状態なのです。
 日常生活の不摂生と食の乱れから、この状態が起るのです。そして、不定愁訴の根源は「五障(五つの身体的障害)」が関わっていることが少なくありません。

 五障の一番目は贅肉(ぜいにく)であり、多くは肉食や乳製品の摂り過ぎと、運動不足から起るもので、肥り過ぎや水肥りは、皮下脂肪の脂肪値が高いことを示し、成人病で死ぬ確立が高いことを現わしています。
 二番目は宿便であり、便秘、下痢、痔、蜘蛛膜下出血、肩凝り、大腸癌等の原因になります。
 三番目は汚血であり、汚れた血が体内に滞って高血圧、肝臓病、通風、吹き出物等の原因をつくります。
 四番目は躰歪であり、躰の歪みや骨の歪みであり、頭痛、不眠症、神経痛、腰痛等の原因をつくります。
 五番目は邪気・外邪(幽界または霊幽界の外流)と交わった為に、肉体に悪影響を及ぼす精神状態であり、神経症や、脳を除く肉体的には殆ど欠陥のない精神障害、心身症、脱力感、疲労感、無気力感、ノイローゼ等です。
 これらの五障に共通しているものは宿便であり、宿便が贅肉をつくり出す元凶になり、贅肉は躰を歪め、骨を歪(ゆが)め、血液を汚染して体内の至るところで汚血箇所をつくりあげます。
 そして、霊幽界や幽界の外流と交流するような衰運の原因となる邪気・外邪と波調を合わせてしまうのです。この事から宿便を排除させることが、肉体的にも、精神的にも、安らぎと安定を招き、不定愁訴を退治できる、最も効果的な方法です。



●宿便という悪魔から解放される

 宿便は運勢的にいうと、過去に冒した食の過ちであり、罪の一種です。その罪が何年も、何十年も放置されることによって、これが巨大化し、悪魔に発展していくことを知らなければなりません。この悪魔が種々の病気を引き起こし、霊幽界や幽界の邪気外流と交信・交流して、諸々の不幸現象を引き起こすのです。

 『エッセネ派の福音書』には、こう記されています。

 「呼吸法によって、空気のエルゼル(エンゼルangel=天使)による洗礼が終わったら、水のエルゼルを探しなさい。水のエルゼルは体内を洗い清め、洗礼をしなさい。そうすることで、あなたは今までの忌まわしき罪から解放され、悪魔から解放されるでしょう。

 先ず、人間の背丈ほどの蔓(つる)と瓢箪(ひょうたん)を探し出し、その瓢箪の中に太陽で暖めた河の水を入れなさい。その瓢箪の先に先程の蔓を付けて、瓢箪を木の枝に掛けて、あなたは地上に膝まづいて、蔓の先端を肛門に差し入れ、腸の中に太陽で暖めた清き水を送り込みなさい。そしてあなたの過去の全ての罪を許して下さるように、水のエルゼルに祈りを捧げなさい。そうすることによって、悪魔が仕掛けた全ての不潔で悪臭を放つものを、あなたの体内から運び去らせなさい。
 その時、あなたは、今まであなたの自らの宮殿を冒し続けた種々の苦しみや、忌まわしい罪の汚れの恐ろしさを、自分の眼で見て、自分の鼻で嗅ぐことになるでしょう。これであなたは全ての罪の汚れから解放されるでしょう。また、断食の日は同じように水のエルゼルで洗礼しなさい。水のエルゼルによる聖なる洗礼によって、あなたは再び新たな命を授かるのです」

 水は大岩の形でも変形させ、河底の角々しい石は、いっしか削り採られて丸くなり、また、雨垂れは石をも貫いてしまう威力をもっています。水にはそんな不思議な威力があるのです。
 今までこれらの威力は、物理的な力が加わったからだと思われていたが、実はその水の成分そのものに、このような力が秘められているということが分かってきたのです。水はどんな汚いものでも洗い流してくれる力を持っています。その力が悪魔を浄化させてしまうのです。この悪魔の実体は、腐敗菌であり、これは腸内に停滞した食物である、動物性蛋白質や脂肪等が腐敗したものです。これらを構成している成分は、食肉の中にあるアンモニア、硫化水素、フェーノール、二級アミン等の発癌性有害物質の生成成分です。
 これらの腐敗菌は、腸壁内から吸収され、やがて体内のあちらこちらに汚れた血液と共に移動を開始します。
 便秘をするとニキビや吹き出物が表面化したり、脱け毛や、肩凝りや頭痛が起るが、これは既に腸内で発生した腐敗菌や異常醗酵によるガス腸内から再吸収され、全身に回ってしまったことを現わしているのです。

 したがって、先ずこれを排除する為には、腸内を洗い清めることから始めなければなりません。
 温水循環法は、毎朝一回腸内を洗い清める作業です。温水循環器には約6リットルのお湯(温度は42℃)が入り、2m程のシリコンホースの先端には金属のノズルがついており、それを直腸まで差し込むのです。そして、一回ごとにお湯を送り込みながら腸内にお湯を循環させ、停滞している宿便(黒便、砂便、寄生虫、タール状にこびりつく重金属等)を排泄するのです。そうする事によって、今まで食物から出た排泄されない腐敗菌が腸内から一掃されるのである。温水循環器には6リットルを二回行って排泄するのが適当です。

大腸の構造図

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 大腸の長さは約1〜1.5mで、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S字状結腸、直腸の六つの部分から構成されています。そして宿便は主に大腸に停滞します。また、以上の部位は炎症を起こしてガンが発生し易い場所です。これらの部分を温水循環器で浄化するのです。
 しかし、これは大腸の浄化法で、この肛門から送り込んだお湯は小腸までは届きません。大腸と小腸の境目には、回盲弁(かいもう‐べん)という逆流を防ぐ弁があり、此処で大腸域と小腸域を遮断しています。したがって、大腸側から送り込んだお湯は小腸までは届かないのです。
 小腸は、胃でドロドロに溶かされた食物が、此処ではアミラーゼやトリプシンやリパーゼ等の食物分解酵素と混ざりあい、細かい栄養素の粒となって腸壁内の微繊毛に拾い上げられて、やがてこれが血液の要素になっていきます。しかし栄養素として吸収されなかった食物の残り粕は、大腸に送り込まれるのですが、これが一粒も残らず送り込まれるというわけではありません。これらの有害物質は、小腸内の繊毛や微繊毛のヒダに付着して種々の病因を発生させるのです。

 現代医学に於ては、宿便は存在しないということになっていますが、これはあくまで死体解剖の結果からであり、生体に於ては、また異となる結果が出るのです。
 小腸の長さは、日本人の場合約5〜7mくらいですが、これは単に円筒状の筒ではなく、その表面積は微繊毛を広げると、その広さはテニスコートの広さに匹敵すると言われています。そして、微繊毛のヒダは食物のカスや有害物質の絶好の隠れ家となるのです。
 それらを此処から追い払らわない限り、浄化としての「みそぎ」は完全をきした事にならないのです。では、それをどのようにして行うか、これが重要課題である、小腸内の浄化です。

ミルマグ(液状と錠劑があり、薬局で市販されている)
 小腸の浄化については下から浄化する事が出来ないので、上から行う方法がとられます。それは一週間に一日だけ断食して、その最終日の就寝前に「ミルマグ(ミルク・オブ・マグネシアと謂われる錠剤で、一錠当たりに水酸化マグネシウムが0.35g含まれている。ただし現在は液状になったものが薬局なので販売されている)」という緩下剤を六錠飲用するのです。これを飲む事によって、便秘に伴う頭重、のぼせ、肌荒れ、吹出物、腸内異常醗酵等の諸症状を取り去り、小腸を浄化する事が出来るのです。これを温水循環器の大腸浄化法と併用して行うのです。
 これを併用して行うと、翌朝には小腸内に隠れ潜んでいた有害物質(腐敗菌であるから悪臭が強い)が異様な匂いと共に排泄されるのです。

 《霊的食養道》は、単に食物を穀物菜食主義に切り替えて、それを実践するだけではありません。正食法や食餌法に併せて、浄化法や断食行法が確立されなければならないのです。
 食を慎み、そして乱さず、咀嚼(そしゃく)をしっかり行い、粗食小食を実行しながら、粗衣に徹して、浄血を行い、然も定期的な「みそぎ」として断食を行い、あるいは躰の内側である小大腸内を清浄して腐敗菌を取り除かなければなりません。これらの作業が一貫されて、はじめてその究極の目的である《半身半霊体(はんしんバーはんりょう‐たい)》がつくれるのです。



●なぜ断食をしなければならないか

 人間の小腸の長さは約5〜7m程あります。これに比べて大腸は約1〜1.5m程しかありません。5〜7mある小腸を食べ物が通過するのに、2〜3時間しかかかりませんが、これに比べて僅か1〜1.5mしかない大腸では、食べ物が通過するのに約12〜24時間かかります。この小腸と、大腸との時間差は、大腸が消化困難な植物性食物を細菌によって分解し、消化する為です。そして、水分とともに吸収します。
 ところが、あまり長く食べ物が停滞すると「便秘」になってしまいます。これは腸内腐敗菌が増殖する為です。また、これが血液を汚染します。そしてこの汚染が、種々の病気やガンを発生させます。このガンの早期状態は、「血行の悪い処」に生じます。
 これを齎(もたら)しているのは、便秘状態が悪化した「宿便」であり、大腸に異常が生じると、連鎖反応してやがて脊椎せきずい/上から順に頸椎、胸椎、腰椎)と内臓の異常に繋(つな)がって行きます。すなわち、脊椎の歪みと内臓の因果関係はよく知られており、病気の病巣は血行の悪い処に発生するのです。こうした、多くの悪い箇所は、血管が縮小して、鬱血(うっけつ)を起こし、シコリを生じさせます。

このような症状を放置するとガンになるかも知れない。

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 喩えば肝臓ガンの人は、肩と頸(くび)に「凝り」が出来ます。一般的には、単なる「肩凝り」として軽視されがちですが、既に内側では大変な異変が起っているのです。また、肝臓の裏側にあたる背中の処や、肩胛骨(けんこう‐こつ)にシコリが顕(あら)われ始めます。
 膵臓ガンの人は、水落(みぞおち)に痛みと凝りを感じ、腰と背骨に痛みとシコリが出来ます。そして、これらの「痛み」や「凝り」は、総べて血液の停滞によって引き起こされています。
 血液の停滞は、大腸内の宿便と因果関係を持ち、宿便を血液を汚染して行きます。そしてその元凶は、腸内で発生した腐敗菌です。
 一方、この、腸内で発生した腐敗菌は酸に弱く、食物は酸毒化する一方、乳酸菌のような、乳酸は腐敗菌の毒素の発生を予防します。

 乳酸菌は乳酸発酵に関与する細菌の総称で、代表的なものは連鎖球菌科のグラム陽性球菌および乳酸桿菌科のグラム陽性桿菌グラムようせいかんきん/棒状または円筒形の細菌の総称で、短桿菌・長桿菌・トリコーム型・コリネ型などがある)であり、パン・チーズ・乳酸菌飲料のほか、日本酒・醤油・味噌・漬物などの製造に不可欠です。これらの伝統的発酵食品から、飼料製造、生分解性のポリ乳酸プラスチック、整腸剤の乳酸菌製剤など多くの食品やそれ以外の領域でも、乳酸菌は幅広く私たちの生活に密着していますし、それだけでなく、健康維持にも限りなく利用されています。この乳酸菌の腐敗菌による毒素の生産防止を理論だてたのが、旧ソビエトの生物学者だったエリー・メチニコフI'lya I'lich Mechnikov/1845〜1916)でした。

棒状円筒形の細菌。乳酸菌などに見られる。(電子顕微鏡写真)

 メチニコフは旧ソ連の生物学者で、のちフランスに帰化し、パスツール研究所長などを勤めました。白血球の食菌作用と免疫の研究で知られ、腸内細菌の駆除による早老防止の研究などを考え「食細胞説」を唱えてノーベル賞を受賞しています。
 メチニコフが「食細胞説」として研究したのは、ヨーグルトを常食としているブルガリアの住民は、この地域に限り非常に長寿者が多い事に注目しました。腸内の有害細菌を除去するには、乳酸菌を腸内に取り込み、乳酸菌の働きによって腐敗物質を取り除くと考え、ヨーグルトによる不老長寿説を提唱したのです。

 地球上の生命体の中で、生物として最高に進化した人間が、最下等の微生物である乳酸菌の力を借りて共存し、共棲(きょうせい)して行かなければならないのは、何とも皮肉なものです。
 その後、デンマークの医学者であったオルラ・ヤンセンOrla Jensen/1924年、ビフィズス菌を独立したBifidobacterium属として分類することを提案したが、一般には受け入れられなかった)が「ヨーグルトの中に含まれている乳酸菌と、糞中に含まれる乳酸菌は同一のものでない」という事を発見します。
 乳酸菌を増殖させる為には、糖分が必要になりますが、糖分成分のうち、蔗糖しょとう/砂糖の主成分である甘味成分で、サッカロースの通称名。甘味が強く、光合成能力のある植物中に存在し、水に溶け易い白色の結晶。サトウキビ・サトウダイコンなどから製し、甘味料として重要。希酸や酵素により加水分解されて葡萄糖(グルコース)と果糖(フルクトース)になる)は、総べて小腸で吸収されてしまうのに対し、乳糖(哺乳動物の乳ちちの中に存する二糖。無色の結晶で弱い甘味をもち、矯味薬・小児栄養剤とする。加水分解するとガラクトースとグルコースになる)は小腸では吸収されず、そこで乳酸菌の増殖で役に立つ事が明らかになりました。このヤンセンの学説は「千島学説」の“ウイルス・バクテリアの自然発生説”と似通ったものを示唆しています。

 さて、パスツールの実験以来、「地球上には、どのような条件であろうとも、一匹のウイルスやバクテリアであっても、自然発生は一切無い」とする考え方が定説となっています。また、多くの医学者に、この考え方は広く支持されています。したがって、人間の腸内に於いても、あるいはどのような人体環境にあっても、一匹の細菌すら自然発生は絶対にないというのが現代医学の考え方です。これに医学者が異論を唱えると、冷笑され、医学界から追放の憂き目を見てしまいます。
 しかし一方、現実的な出来事として、母体に守られて生まれて来る新生児は、母胎内の胎児で居る時は、その胎児の腸内は「無菌」です。ところが、この世に産声とともに、一旦生まれ出ると、その翌日から細菌類を腸内に宿します。
 特に、生後四日目頃から、赤ん坊の腸内はビフィズス菌Bifidobacterium/腸管に常在し、多形態性を示す嫌気性細菌群。母乳で養育される乳児の腸内菌叢の主要な構成成分で、これらの菌の産生する乳酸や酢酸が消化に役立つとされる)で一杯になっています。そして議論の的は、新生児のビフィズス菌は一体何処から来るのかというのが、医学者の間で様々な論議を呼んでいます。
 “ウイルス・バクテリアの自然発生説”を学説として認めない為、こうした論議が展開されるのだと思います。

 「千島学説」では、「バクテリアの性質は培地(微生物・動植物あるいはその組織・細胞の培養に使用する液体ないし固形の物質)ならびに培養基(微生物・動植物、あるいは組織・細胞の生育に必要な物質)の性質に依存する」というバクテリアの自然発生説を提唱し、メチニコフやヤンセンの学説を、乳酸菌理論に基づく考え方で一歩前進させたのです。

 さて、食物は腸で消化され、ここで造血されますが、その腸が弱まれば便秘になり、便秘はやがて宿便へと変貌して、ガンを起こす病因をつくります。更に、腹部・内臓には各種の臟噐が内在していて、人間の活力の根源をなしています。この部分は骨格に覆われていないので、指圧やマッサージでは直接的に刺戟が伝わり、医療テクニックは難しいとされていますが、大東流整体術の「按腹術」(腹を揉み、更に摩る按摩術で、血行・胃腸機能・吸収排泄を盛んにする)を覚えれば、大きな効果が上がります。これを、断食中に施し、断食者の緊張を解き、また快感を与える事が出来ます。

 按腹術を行う際、腹筋が硬く、腹部が緊張している人の場合、こうした人は血行不良に陥り、血行のバランスが崩れていますから、腹部に「凝り」などの異常がある場合、まずガンを疑わなければなりません。
 一方、健康な人ならびに二週間程度の断食をして、細胞の逆分化に至った人は、腹部が柔軟で弾力性があり、ふんわりとなって来ます。
 それに反して腹部に硬結が感じられ、あるいは弛み過ぎて衰弱した、垂れてしまった腹部の人は不健康であり、腹部内の機能が正しく、活発に機能していない事を物語っています。こう言う人は、血行のバランスが崩れ、鬱血(うっけつ)していますから、まず断食を行い、腹部を揉み解(ほぐ)して、血行を闊達にし、鬱血を取り除き、血液を浄化しなければならないのです。
 更に、断食の目的は「浄血」であり、腸内を整え、血を正しい形に保つ事なのです。