入門について 3



●入門後三ヵ月間は「門人見習い」として扱われる

 入門審査を提出し、入門が許されたとしても、直ぐに「正式門人」としては看做されません。
 三ヵ月間は「門人見習い」として扱われ、次の関門が待っています。「道場内外の掃除」や「見取り稽古」(指導者や先輩達の稽古を研究する)や「神前礼拝ならびに殿中作法起居振舞」を徹底的に叩き込まれ、初心者の段階を、身を以て体験させられます。
 「見所がある」あるいは「将来性がある」と判断した人を、更に次の篩(ふるい)に掛けて、選別するのです。したがって、ここで脱落して行く人もいます。

 また、儀法を直ぐに教えてもらう事はできません。一ヵ月を過ぎた当りから、「手解き三箇条」などの初心者技が道場指導員によって、基本技をみっちり指導され、残りの二ヵ月を掛けて、基本動作(左右分離躰操法、木刀の素振り各種動作、静座法、丹田呼吸法、膝行、膝退、膝側、膝行素振り、膝退素振り、坐法四方素振り、殿中における左前の「殿中起居振舞之作法」、指導者や先輩に対する礼、金銭を手渡す時の封書翰の厳守など)の一切を習得します。


【尚道館道場の着座配置図】
 
一般に信じられている、南面でないので、これに注目

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 さて着座について、簡単に説明しましょう。
 野外では「南面」が最高の位置とされ、ここが上座となります。君子、南面の理(ことわり)です。
 しかし屋内では、建物の構造や道路に面した立地条件もあるので、これに伴い玄関の位置も変わり、向かう方向に、無理にこだわる必要はありません。

 また神棚の位置にしても同様であり、向かう方角にこだわる人がいますが、こうしたものは霊的に見れば、方角より、その頭上を考えるべきで、神棚が階下にある場合は、上階で、その上に当たる部分を踏まないようにするということが大事です。

 よく階下の商店や飲食店などで、経営者が神棚の位置と方角にこだわって、飛んでもない場所に、不自然な形で、神棚を祀っているのを見ますが、たぶん、ああした不自然さは、恐らく占師か祈祷師に多額な金銭を払い、その助言によって、商売繁盛を目論んで、不自然な位置に配したのであろうと思われますが、あれは飛んでもない間違いです。こうした位置や方角にもだわるよりも、まず階下は、神棚の頭上をよく考え、上階から、神棚の位置する、ここを踏まないようにしなければならないのです。

 ちなみに尚道館は、道路に面した立地の関係上、「君子、南に座し、北に向かう」という、霊的に最も難しい方角を自ら選択し、建物の立地条件の不利を、心と礼儀と敬愛に置き換えて、これをコントロールしているのです。

 つまり道統の宗家自らが、一等も、二等も低い方角と位置に座し、来る人に対しては、万人を差別せず、階級の低い人であっても快適な座に坐らせ、無言の慈悲愛を注いでいるのです。しかしこれに気付く者は少ないようです。

 とにかくこの間に、徹底的に人間としての礼節謙譲と、上級武士の殿中での起居振る舞い(御式内の作法)であった礼法を徹底的に学ぶのです。

 この後、「第六級」の儀法検定試験があり、第六級に合格してはじめて「正式門人」となる事ができます。
 しかし六級に不合格になりますと、正式門人になる為には、更に一ヵ月間延期され、再度第六級の儀法検定試験に挑戦する事になります。つまりこれに合格できなければ、正式門人になれないばかりか、以降の儀法も教えてもらう事が出来ず、「入口辺り」で足止めを食らって再履修を繰り返すという状態となります。

 人間はこのようにして、苦労しながら道を求めるものなのです。脱落者は敗北者であり、これは同時に人生の敗北者でもあるのです。こうした敗北者に、西郷派大東流の「秘伝の術」を授かる資格はありません。