野草並びに毒草の智慧と利用法
 大東流の『合気』は、これまでの古流武術諸流派には、全く見られない特異な武術です。
 その修行法は広域に亘り、特に呼吸法と言う特殊な吐納術(とのうじゅつ)を用います。この術は、高度な技法をマスターする場合に用いられ、丹田呼吸法と言う、逆腹式呼吸を行うため、時として呼吸器障害や、深呼吸による酸過多状態に陥って、頭重を催し、精神障害を起こすことがあります。

 呼吸器障害に於ては、一般に「禅病」(深い呼吸から起こる呼吸器障害で、心身を病む)という形で現れ、かつて白隠禅師(はくいんぜんじ/江戸中期の臨済宗の僧で、臨済宗中興の祖と称された)が、禅の吐納法の誤りから気管支喘息に似たこの病気を煩ってしまいました。

 白隠は、若くして各地で修行し、京都妙心寺第一座となった時、この禅病を患い、北白河山中の仙人・白幽(はくゆう)から「瞑想・軟酥(なんそ)の法」を学び、これを克服しました。
 白隠が著わした『夜船閑話』(やせんかんな)や『遠羅天釜』(おらてがま)には、この時の事が書かれています。以降も諸国を遍歴教化し、駿河の松蔭寺などを復興したほか、多くの信者を集め、臨済宗中興の祖と称された名僧の一人です。そして白隠は気魄ある禅画をよくしました。

 さて、「軟酥の法」の酥(そ)とは、牛または羊の乳を煮つめて濃くしたものを指すのですが、軟らかな酥、つまり仙薬を用いるとした唯心的なイメージで、実際には存在するものではなく、これが躰の中を気持ちよく流れ、自然治癒力を増幅させて、精神が肉体に影響を及ぼすという修法を現わしたもので、「内観の秘法」と呼ばれるものです。
 これを実践すると、不安や恐怖が消え去り、気力が充実して、体内に生命力が躍動し、活力が増大するというもので、不治の病といわれる病気でさえも自然治癒力によって、完治するというものです。

 人間界における、迷いも病気も、同じ脊髄から発するもので、これが脳に入り、脳に存在する「覚性」(かくしょう)に結び付いて全身を巡り、結局、その交わり結んだ度合によって小さければ迷いとなって、大きければ病気となって現われるとしたのが、人間に及ぼす災いであり、これを取り除くのが「軟酥の法」である、と「内観の秘法」は教えるのです。
 したがって脳と脊髄を繋ぐ統一力で、迷いや病を切断すれば、自然治癒力が発揮されて、病気が治ると考えられたのがこの秘法でした。

 ところが唯心所現の理によって、これを用いるために常人・凡夫には中々難解な秘法であり、一種の悟りであるので、効験(こうけん)を現わすには、かなりの修行と忍耐を要します。
 そこで西郷派大東流では、こうした呼吸器障害や精神障害をウドなどの生薬によって、治癒させる方法を指導しています。

 また、大東流合気の長年の修行者で、指導員クラスまで進んだ人の中には、深呼吸による酸過多状態に陥って、精神障害を煩っている人を時々見かけます。
 こうした人は、本来ならばその上に人か、そのグループの最高責任者がこれに気付き、治してやらなければならないのですが、今日では古伝の活法技術を知らない為に、これを見過ごしたり、あるいは精神障害者のワンマンに振り廻されて、分派を作って益々細分化していると言うのが大東流の現実です。

 さて、西郷派大東流合気武術は、その最高責任者である曽川和翁宗家(九州科学技術研究所・所長)の指導の許、こういう事態に陥った場合、即座に治療の改善策を打ち出します。
 呼吸の吐納によって起こり間違いは、次ぎの通りです。


1.眼が赤くなる。これは亜脱臼と呼吸器障害が原因。

2.三白眼(さんぱくがん/黒目が上方に偏って、左右と下部の三方に白目のあるもの)の目付きになる。呼吸法の間違いから起こる、精神障害が原因。風呂の中などで、こうした呼吸法を行うと、この障害が出てくる。貧血や頭重もその一つ。

3.誇大妄想的で、行動が妄想を帯びてくる。精神障害が原因。

4.言っている事がおかしい。時として、常識外れの行動をする。

5.古神道や密教のオカルト的な話が多くなり、その真義に合わない事を言い出す。

6.躁鬱(そううつ)を交互に繰り返す。また気分的に浮沈の波がある。

7.喘息に似た咳をする。あるいは発作を起こす。癲癇を起こす。疳癪を起こす。激怒の状態が並みでない。


 以上の事が起れば、呼吸器障害か、精神障害を起こしている恐れがあります。
 さて、こうした場合、治し方があります。現代医学では残念ながら、こうした病気を完治させる事が出来ません。
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