ドイツ人医師・ベルツが実証した穀物菜食者の優秀性
 明治初期に来日したドイツ人医師・ベルツ(Erwin von Balz/エルウィン・フォン・ベルツ。ドイツの内科医。1876〜1905年(明治9〜38)滞日、東大医学部で医学の教育ならびに研究および診療に従事。のち宮内省御用掛。息子トク・ベルツにより「ベルツの日記」が編まれた。また、「ベルツ水」で知られる。ベルツ水は、苛性カリ・グリセリン・アルコール・水などの混合薬液であり、また皮膚の荒れどめとなり、また凍瘡初期の塗布薬しても使用される。1849〜1913)博士は、日本の医学教育の貢献した人物である。ベルツ博士は「ベルツ水」を発明した医学博士でもあり、またの「人力車の俥夫(しゃふ)の走力実験」を行った研究者でもあった。

 この実験には、22歳と25際の二人の俥夫が選ばれ、ベルツ本人が人力車に乗り込み、
車を引かせてみた。
 これは要するに、菜食者と肉食者の、どちらが卓
(すぐ)れているのか耐久力実験であり、栄養学がすすめる、肉食を常食としなくても、人間は菜食だけで、十分にやっていけると言う、栄養学の仮説を暴く話なのである。

 さて、この実験に参加した二人は、全く同一の飲食物が与えられた。その時、最初に与えられた食物は、白米、イモ、大麦、粟などといった日本古来からの食べ物で、脂肪と蛋白質は少ないが、デンプンの量はかなり多いものであった。

 この条件下で、体重80kgのベルツを毎日40km、三週間にわたって引かせ、三週間後に、二人の体重を計ると言うものであった。走行が終えて、体重を計ると、一人は体重の増減がなく、一人は半ポンド増えると言う結果が出た。

 そこで今度は、二人に牛肉を与え、デンプンの量を減らし、引かせてみる事にした。すると、二人は、三日後、非常に疲れ、肉食では走れないから、肉の量を減らしてくれるように頼んだ。そして肉の量が減り、穀類食が回復されると、再び元気になり、実験後、一人は変わりなく、もう一人は半ポンド減少していた。

 また、ベルツは東京から日光まで110kmの路程を旅行したが、この時、午後六時に東京を出発し、午前八時に日光に到着した。この道程の所要時間は14時間であり、途中、馬を六度替えている。
 同じ日に東京から日光まで、人力車で到着した俥夫が居たが、この俥夫はたった一人で人力車を引いて来たのである。110kmを、たった一人で10時間掛かって引き、この俥夫が摂取していた食べ物は、主に植物性の物だった。

 この時、ベルツは、日本国民の栄養を論ずる時は、このような方法によって行うべきであると力説したのである。
 また、ベルツの著書には、アメリカの大学で行われた『肉食と耐久力』に関する実験結果も紹介している。この著書によれば、肉食をして居る人と、全く肉を食べない人の体力並びに耐久力実験を行っているのである。

 肉常食者と、そうでない人の実験結果から、「腕を支える力」については、肉常食者15人のうち、15分以上腕を伸ばしたままでこれに耐えられる人は僅かに2人しか居らず、肉を食べない人の場合は、32人中、23人がこれに耐えられたとある。
 更に時間を30分に延長し、これに耐えられた肉常食者は一人もいなかった。一方、肉食をしない人のうち、15人がこれに成功したばかりでなく、そのうちの9人は一時間を経過し、そのうちの一人は3時間を突破していたのである。

 また、スクワット
(上半身を伸ばした状態で、膝の屈伸をする運動で、大腿部の強化を目的とする)については、肉常食者では300回以上できた者は非常に少なく、実験終了後、ろくに歩く事が出来ない者が続出した。
 一方、肉を食べない者は、1800回も遣
(や)り、この実験が終っても疲れを見せないどころか、その中には、2400回を越える者が数人居り、その中に一人は5000回まで達した者が居たと言う。

 更に追言としてあげれば、この実験の被験者として選ばれた「肉食をしない人達」は、特別な運動の訓練も、スポーツも何一つ体験した事のない一般の人達であった。
 一方、肉常食者は全員が運動やスポーツ体育の専門家であり、こうした専門家でありながら、何も遣っていない人に、専門家が負けたのである。こうした事からも分かるように、現代栄養学が体力や持久力の根拠としている「食肉をする」こととの因果関係は、全く根も葉もない仮説であるといえよう。

 以上の結果を踏まえて、栄養学とは無縁の食事を摂っていても、また栄養学に 頼らない食事をしていても、植物性の食事を実践すれば、その人の体質は非常に優れ、耐久力のある体躯が作れると言う事なのである。

  この実験で被験者として選ばれた肉を食べない人達は、特別な運動も訓練も受けいない一般人だった。一方、肉食者は栄養学を信奉し、全員が運動の専門家であり、その専門家達が一般にド素人に負けたのである。また、この実験によって、肉食がスタミナや耐久力をつける源ではないことがはっきりしたのである。

 ベルツの実験は、「人力車の俥夫
(しゃふ)の走力実験」からも分かるように、栄養学に準ずる食事は、人力車の俥夫を僅か三日で疲れさせ、走れなくさせてしまったのである。しかし俥夫達の食事を植物性に戻すと再び元気になり、肉を食べない日本食の方が体質も良くなり、また体力がつくという実例が、人間は、菜食主義を徹底して居る人の方が卓ぐれていると言う事になる。
 そして、ベルト博士の実験で明白になったことは、食事と耐久力は密接な関係にあるという事である。
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